りっく

アンダーカレントのりっくのレビュー・感想・評価

アンダーカレント(2023年製作の映画)
3.8
銭湯、湖、池、川、そして海。本作は常に水のイメージで溢れており、水面はキラキラと輝いている。だが、そこから受けるものは爽やかさではなく、不穏さだ。水面の下には見えない底なしの世界が確かにあり、その世界へ身を投げ、魂を奥底に沈殿させたいような危うい願望が通奏低音として常に漂っているような感覚に陥る。

本作の主要な人物である真木よう子、井浦新、瑛太はいずれも今にも消えそうなか細い声で喋る。それは本当の気持ちを相手にどう伝えればよいか分からないといった今泉作品の中心となるコミュニケーションの問題というよりは、自分の本心や素性を隠すために平気で嘘をついてきた結果、相手はおろか、自分自身のことまで分からなくなってしまうくらい、悲しみに暮れた自分という存在を嘘で塗り固めた世界に沈殿させ、窒息寸前の状態に陥っている。

だからこそ、自分の気持ちを台詞で説明しすぎているように感じる場面も、それが果たして本心なのかどうかが分からない。その人間が存在すること自体の不穏さは、ラストに犬を連れて散歩をする真木よう子の後ろを、絶妙な距離を取って歩く井浦新の後ろ姿を映し出すまで途切れることはない。今泉力哉がさらにネクストステージに進んだ感のある一作だ。
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