りっく

食人族のりっくのレビュー・感想・評価

食人族(1981年製作の映画)
4.3
逃げ場のない残酷描写の数々と向き合うことを強いられ続ける95分。唯一の救いは、その映像は確かに「作りもの」だということ。それを自らに言い聞かせながら、ゲッソリする思いで見終えた。けれども、「やらせ」と述べていた処刑場面や動物を殺す場面は、実は「ホンモノ」だと後から知った。リスザルが頭をスパンと切り落とされ、亀が甲羅を剥ぎ取られ解体されるシーンはトラウマ確実だ。

本作はいわゆる「セミ・ドキュメンタリー」形式で進行していく。とにかく目を覆いたくなる残酷描写が、あたかもジャングルの中でのありのままの出来事であるかのように撮られていく。偶然カメラに映り込んでしまったような映像も含め、そこには悪趣味を超えた恐怖すらも記録されている。いくら表現の自由が保障されているからといって、あらゆるものを映せば、それでいいのか。「撮る」ことに取り憑かれ、盲目になってしまう男を見ていると、そんな思いにまんまと駆られてしまう。

本作で描かれるおぞましさ、惨たらしさといった残酷描写は、2つの側面を持っている。1つは異なる民族の文化や所業自体の残酷さ。知識だけに囚われた文化人類学者はそれを目の当たりにし衝撃を受ける。1つは理性や倫理観を失った人間の残酷さ。ジャングルに入った撮影クルーは、狂気によって無差別殺人や強姦を繰り返していく。

本作は異文化理解の問題と切っても切り離せない作品だと思う。文化や儀式や食に関する残酷描写を許容できなければ、それは異文化理解の精神から反してしまうのではないか。そんな罪悪感にも似た気持ちの悪さが、終始付きまとってくる。だが一方で、自らの理性や倫理観を無視してまで、彼らを受け入れる必要性があるのかとも思ってしまう。自分と他者との境界線を踏み越えなければならない居心地の悪さが、観る者の心に侵食してくる。

彼らの世界を未開で野蛮だと決めつけてしまえば、自分は自分が今いる世界で安心できる。鑑賞後の気分は間違いなく最悪だ。胸にモヤモヤした気持ちの悪さが、いつまでも残り続ける。しかし、その気持ちの悪さは、決して悪趣味な残酷描写を見たという事実だけが原因ではない。自分の心の中から湧き上がってくる「許されざる思い」。そんな愚かな考えを生み出した、自分自身への嫌悪でもあるのだ。
りっく

りっく