JunichiOoya

劇場版 ナオト、いまもひとりっきりのJunichiOoyaのレビュー・感想・評価

5.0
中村真夕さんの15年のドキュメンタリー『ナオトひとりっきり Alone in Fukushima』のその後を追う労作。中村さんは12年から8年間ナオトさんの元に通い、ダチョウ(!)や牛、犬猫たちとナオトさんたちが暮らす富岡町撮り続ける。

周囲に途絶えることなく続いていく死や別れ。土の盛り上がったダチョウや猫の墓には見ていてことばが詰まる。
そしてなお隣さんの三人の配偶者と子どもたちとの別離…。

放射能によって人の住めなくなった富岡町をコロナによって人が日常の暮らしを拒否された東京と並べて見つめるナオトさん。
そこにはもちろん福島をスタート地点として「アンダーコントロール」を喧伝する国家への諦念も。

終盤中村さんは自身も被写体の一人となって二枚のポートレートを登場させる。
ナオトさんと近隣の老夫婦。彼らは原発を最大の厄災として打ちのめされてきた真の当事者。
であるのだけれど、これからの富岡町を思うと「原発に帰ってきてもらって再稼働しかない」と(ほんとうに)淡々と語るしかない。あたかも中村さんがその「絵」を欲しくてシナリオを書いたみたいに、正確に迷いなく再稼働に肯定的な物言いになる彼ら…。

ひたすら切ない物語。出色のドキュメンタリーだと思います。

上映した十三第七芸術劇場では、中村さんの新作『ワタシの中の彼女』旧作『愛国者に気をつけろ!鈴木邦男』も見ることができる。
なんて素敵な映画館なんでしょう!
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