たく

終わらない週末のたくのレビュー・感想・評価

終わらない週末(2023年製作の映画)
3.7
気晴らしの旅行に出た一家が宿泊先で不可解な現象に見舞われていく不条理モノで、世界で起きてる重大なことは一般市民にはいっさい知らされず、こうやって訳の分からないまま巻き込まれていくんだろうなという、ある種のシミュレーションのように感じさせる怖い話だった。ネットが突然使えなくなるということはあり得る話で、世界を混乱に陥れるのは意外と簡単なことかもしれないと思うとゾッとする。何かが起こりそうな不安をジワジワとかきたてるカメラワークと音楽の使い方が上手く、鹿が人間に警告する感じの神秘的な演出も活きてた。ジュリア・ロバーツが神経質な妻役を好演してたね。

冒頭で朝早く目覚めた妻のアマンダが、夫のクレイの了解も得ずに突然旅行に行くと言い出して荷造りしてるところに彼女の神経症的な気質が窺える。旅行先の別荘にたどり着いた彼らの前に、めったに姿を見せない鹿が現れ、その後に海岸で巨大なオイルタンカーが座礁するという異常事態に遭遇する。その夜に突然ネット環境が寸断し、緊急事態宣言が発令されたところで別荘のオーナーであるG・Hとその娘が突然訪ねてくるところから、彼らを不審者と疑ってやまないアマンダと、彼女をなだめてG・Hたちを迎え入れるクレイの姿に疑心暗鬼と葛藤するリアルな人間心理が描かれる。

G・Hが別荘に戻ったのは何か隠された目的があるようなんだけど、次々と起こるあまりに不条理な事態を前に彼の不穏さはいったん棚上げされ、アマンダやクレイたちと少しずつ信頼を確立していく感じ。少なくともアマンダにとっては、この状況が自分の偏狭さを見つめ直す良い機会になったのだと思う。

身体に異常が現れた息子を救うためにG・Hが身体を張る姿や、アマンダが嫌悪感を抱いてたG・Hの娘を鹿の大群から守るために取る勇気ある行動にジーンと来たところで、それらを全て無効化する虚しい幕切れが訪れる。冒頭からたびたび挿入される宇宙視点に何か壮大な結末を期待してたので、この意外と現実的な帰結にはちょっと白けた。結局、「もう待てない」と言って一人で行動に出たアマンダの娘が一番正しい選択をしたわけで、自分の欲求には素直に従いましょうというオチだった(たぶん違う)。
たく

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