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マエストロ:その音楽と愛とのfujisanのレビュー・感想・評価

3.5
感動の音楽と愛の物語が交差する、真実の物語。

12/20から配信開始されるNETFLIXオリジナル映画で、期間限定で劇場公開されている作品。オーケストラ指揮者の生涯を描いた作品ということで、シネ・リーブルのOdessa音響システムの劇場で鑑賞してきました。

劇場公開期間が非常に短いため、まだ間に合うこのタイミングでレビューを上げておきます。



本作は、アメリカを代表する指揮者、レナード・バーンスタインとその妻、フェリシア・モンテアレグレの愛の物語であり、レナード・バーンスタインの半生を映画化した伝記映画。

監督は「アメリカン・スナイパー」など多数の映画に主演し、監督業もこなすブラッドリー・クーパー。

彼はこの映画でも主役のレナード・バーンスタイン役を演じており、さらに「ウィンストン・チャーチル」で、ゲイリー・オールドマンをチャーチルそっくりに創り上げたメイクアップアーティスト、カズ・ヒロの手も加わって、バーンスタインそっくりに仕上がってます(多分、元々顔の造りが似てるのもあると思います)

バーンスタインの妻フェリシアを演じるのは「プロミシング・ヤング・ウーマン」等で主演を張る実力派女優のキャリー・マリガン。本作で、ブラッドリー・クーパーとともにアカデミー賞ノミネート間違いなしと言われているその演技は、素晴らしいものでした。



本作は、NETFLIXオリジナル映画ということもあり、最近でいうと「ザ・キラー」と同じく、パンフレットが制作されていませんでした。よって、以下に少し詳しめに情報&感想を書きます。


■ 映画の構成

映画は二部構成になっており、
25歳の彼を一躍有名にしたニューヨークフィルの代役指揮から、彼が音楽界で地位を確立するまでのモノクロパートと、有名になった彼が晩年を過ごすまでのカラーパートに分かれています(ちなみに、画角はどちらも4:3)


■ ストーリーの特徴

彼の功績を紹介する伝記ではなく、妻と恋人、家族を愛する物語でした。

レナード・バーンスタインは、音楽音痴の私でも子供の頃テレビで見ていた有名人。指揮以外に”音楽のことなら何でもやる”多才ぶりで、ミュージカルの金字塔『ウエスト・サイド・ストーリー』の全ての音楽を作曲した人(Tonight~♪ Tonight♪のやつですね)

ということで、TV番組出演やウエスト・サイド・ストーリー制作の辺りは当然語られるだろうと思っていたらさにあらず。それらは全部すっ飛ばして、全編 『愛に生きた男・バーンスタイン』 の物語でした。


■ バーンスタインと妻フェリシア

バーンスタインはゲイであることを公言しており、妻のフェリシアもそれを承知していたようです。

ただ、妻としては当然納得出来ない思いもあり、映画でも、自宅に恋人を招いた夫との大喧嘩が長回しで描かれ、夫に対して『あなた、そんな生き方してたら、将来は孤独の女王よ!』って言い放つキャリー・マリガンの演技は痛快。

そんな夫婦関係でも、妻は夫の才能に惚れ込み、夫は妻に付き添い続け、最後まで添い遂げた夫婦でした。

このあたりは、
「イミテーション・ゲーム」でも描かれていた、天才暗号解読者でありゲイだったチューリングと彼を支えた婚約者ジョーン・クラークの話や、QUEENのボーカル、フレディ・マーキュリーを最後までサポートした元恋人ジム・ハットンの姿とも重なります。


■ レナード・バーンスタインについて

『クラシックを子供向けに優しく解説してくれる外国人のおじさん』
詳しくは覚えていないですが、バーンスタインさんは、子供の頃、NHK教育テレビ!?でたまに観ていた記憶があります。

ちょうど今年観た「TAR/ター」でも、ケイト・ブランシェット演じるリディア・ターが子供時代を過ごした部屋には彼のTV録画が残っており、彼女自身の役柄が、レナード・バーンスタインの弟子という役柄でした。

そんな巨匠、レナード・バーンスタインは1990年、72歳で亡くなっていますが、日本にも度々訪れ、小澤征爾、佐渡裕など、日本でも多くの弟子を送り出しています(そういえば今年もそろそろ佐渡裕さんの第九のシーズンですね・・)


■ 感想まとめ

さすがにアカデミー賞に絡んでくると言われている作品だけあって素晴らしい作品でしたが、前半の脚本はイマイチで、見せ場、見せ場を繋いでいるだけの唐突感があり、そもそもバーンスタインに詳しくないと理解が追いつきませんでした。

ただ、後半45分ぐらいは見違えるように素晴らしく、特にクライマックス、1976年にイギリスのイーリー大聖堂で指揮を執ったときの、全ての感情がほとばしるかのような感情的で神がかった指揮のシーンは、音が波動のように響いてきたこともあって、無意識に涙ぐんでいました。

このシーン、ブラッドリー・クーパーはなんと6年を掛けて指揮を練習したそうで、正直、この6分の長回しの演奏シーンだけでこの映画の価値はあったと思います。

(この、1976年にレナード・バーンスタインがイーリー大聖堂でロンドン交響楽団の指揮を執ったときの実際の映像(一部)はYoutubeにあったのでコメント欄に貼っておきます)

ユダヤ系のバーンスタインの生涯であり、スピルバーグが監督する話もあったと言われる本作。最終的にはスピルバーグとマーチン・スコセッシの両巨塔がプロデューサーに名を連ねた作品だけあって、重厚でかつエンターテイメントとしても見ごたえのある作品でした。

クライマックスの演奏は是非ヘッドホンの大音量で!




2023年 Mark!した映画:345本
うち、4以上を付けたのは39本 → プロフィールに書きました
参考にした情報はコメントに書きました
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