しの

マエストロ:その音楽と愛とのしののレビュー・感想・評価

3.2
ハイテンポで音楽も愛も手に入れてゆくモノクロの前半は楽しめたが、夫婦仲に亀裂が入ってゆく後半になると凡庸に。それでも長回しの言い合いと完コピ指揮は見所で、それぞれ「音楽か愛か」の破綻と、破綻したまま前進する矛盾とがそこに垣間見えたのだが、如何せんその間に魅力が薄い。

バーンスタインは音楽に関することであればマルチに活動していて、その根本には「人が好き」というモチベーションがある。常人からみれば行き過ぎなくらいのこの愛による駆動が、ある種のサービス精神にも繋がるし、同時に妻との諸々を引き起こす。ということなのだが、ここのドラマが普通だった。

こういう、「人一倍愛を求めるが故に芸術分野において才能を発揮するが、そのぶん人生の不和も発生させる」みたいな芸術家解釈は、『ボヘミアン・ラプソディ』など含めよく見られるものなので、その芸術の力強さと危うさとの緊張みたいな所はもう少し印象的に描いて欲しい。

前半、突然飛躍するミュージカルシーンなど楽しいのだが、一方で後半のウエストサイド物語の楽曲の使い方などあまり効果的に感じられない部分もあり……。ドラマについては『アリー/スター誕生』のような「ブラッドリー・クーパーであること」を免罪符にした強引さは無かったが、かといって目を見張るものもなく。ラストショットにちゃんと感慨を感じたかった。
しの

しの