千年女優

コット、はじまりの夏の千年女優のレビュー・感想・評価

コット、はじまりの夏(2022年製作の映画)
3.5
アイルランドの田舎町に住む九歳の少女で、物静かな性格もあって学校はおろか多くの兄弟と暮らす家族の中でも居場所を見つけられずにいるコット。1981年の夏休み、母親が妊娠したため遠い親戚で農業を営むアイリンとショーンの夫妻に預けられた彼女が、ふたりの優しさに触れるにつれて次第に心を開いていく様を描いたドラマ映画です。

ベルリン生まれの監督で短編やドキュメンタリでキャリアを重ねたコルム・バレードが、妻で過去にも共に作品を手掛けたクリオナ・ニ・クルーリーのプロデュースで制作した彼の長編監督デビュー作で、抒情的な作風が絶賛されてアイルランド語映画最高の興収を記録すると共にオスカー国際長編映画賞ら国内外各賞にノミネートされました。

『秘密の花園』らに代表される「不遇の少女が他の家族の温かみに触れて心を開く」物語は類型的でも、ありがちな劇的展開を避けてじっくりとエピソードを連ねることで実在感を演出します。静的な展開で文学寄りの物語ではありますが、受け身で物静かな少女が遂に駆け出して発した言葉が違う意味で響くラストは美しい映画的な瞬間です。
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