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コット、はじまりの夏のひでGのレビュー・感想・評価

コット、はじまりの夏(2022年製作の映画)
4.2
わあ〜このタイトル写真、思い出してまた涙が出てしまいそうです。

平日休みをフル活用してのハシゴ鑑賞。「ストップメイキングセンス」での興奮をヒューマントラストのロビーで心を落ち着かせながら静かに待っていました。
平日の昼なのに、僕と同じシニアのお客さんで賑やかになってきました。(皆さん、お目が高い!)

洋邦問わず最近の良作映画の中で繰り返し問われてきた「子どもにとって生みの親は最良の親なのか?」というテーマを本作でもまた投げかけられました。

冒頭からいつも下を向き、寂しい表情。家に居ても学校でも自信のない、居場所がない女の子コット。

家は、貧しく暗い。母は忙しなく動き、子どもたちのお弁当さえ作る余裕がない。
そこに帰ってくる父。どうやら仕事もしていないようだが、その割に子どもたちに怒鳴り散らす、絵に描いたようような毒親。
特に黙って、もじもじしているコットには刃の言葉を投げつける。
それにただ黙って耐えるだけのコット。

夏休み前にコットを母親の姉夫妻に預ける話をしている両親。まるで犬のお世話を頼むような口ぶり。

そんなコットを夏休み期間だけ預かった叔母夫婦。
伯母、アイリーンはコットの境遇をすぐさま察し、コットを包み込んでいく。
焦らず、髪を静かに解かすように。

冷たい家族と優しい伯母さん、コットの心がどちらに向かうかははっきりしている。

しかし、この映画はもっと奥深い。コットが家に来てから、彼女に接するのは、伯母のアイリンだけ。伯父のショーンはどことなくコットと距離を置いている。

そして、家に取ってあった子ども用の服をコットにアイリンが着せた時、ショーンは何とも言えぬ表情を浮かべ、早く新しい服を買ってあげよ、と語気を荒めて妻に話す。

服はこの映画にとても意味を持つと思う。
コットの父親は伯母の家に送っていた時、コットの着替えを車に置いてきてしまう。

伯母の家で誰かの着ていた服に仕方なく袖を通すコットは、その後、アイリンと自分の服を選ぶ。
おそらく、自分のために選ばれた初めての服。その服を貶す実の父親。

自分の服を着た彼女は、生まれて初めて自分の意思で行動するのだ!

邦題は、「コット はじまりの夏」
自分を押し殺して、俯いて生きてきた少女が初めて人の愛情に触れた夏。

そして、アイリンとショーンの初老の夫婦にとっても、忘れられず、過去に留まっていた生活から一歩踏み出せるか、
そんなはじまりを意味する夏であったのではないだろうか。

あのポスターの感動場面は、それだけに留まらず、観客に顛末を見せない、不穏さも同時に描く。
観客はただただ願うことだけしかできない。
コットに、アイリンやショーンに幸あれと。

1時間半前には全く知らなかった人たちの幸せな明日を心の底から願わずにはいられなくなる、映画ってなんて素敵な結び糸なんだろうか!
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