こなぱんだ

パスト ライブス/再会のこなぱんだのレビュー・感想・評価

パスト ライブス/再会(2023年製作の映画)
4.0
ストーリー自体はなんてことのない、どこにでもあるような典型的なもので、まあしかもこれはおそらく監督の自伝的な側面をもつ映画なのでしょう。

けれどもこの監督の何が素晴らしいかって、自伝的になりがちな、この類のストーリーを、非常に冷静なカメラワークで捉えていること。
こういうストーリーが典型的なものであるにもかかわらず、とにかく主人公の叙情的な側面にフォーカスして感情的に、あたかもこの関係が非常に特別で、ロマンチックに見えるように撮られた恋愛映画なんて腐るほどあるわけで、

そんなもの見せられても「お前の恋愛なぞ地球上のほとんどが経験するであろう恋愛の典型的な1つにすぎん、特別だと思ってるのはお前だけじゃ」などという感想が沸くだけなので、私は基本的に恋愛映画が好きではないのだが、

この映画はそれを「本人たちは特別なように感じているけど、これは数多ある恋愛の1つにすぎない」という現実的な目線で映されており、それが非常に良かった。

「인연」などという、若干ロマンチックにも聞こえるモチーフが使われているにもかかわらず、ただ、それは登場人物たちのナイーブさによって使われているだけで、カメラワークは非常に冷静で、私たちはそこで「感情移入」の強制をされない。そのバランスが非常に良かった。

さらに、ナヨンの夫が最後の方で口にする不安は、おそらくこの世の全ての人間が陥る「(大切な人にとっての自分の存在の)代替可能性」であり、その視点が入れられていることが、この映画を非常に深いものにしている。

代替可能性を受け入れて、結婚という制度に甘んじるものも(ナヨンはもしかしたらこういう立場かも)いれば、未だに恋愛による「代替不可能性」を信じて、それを信じたうえで結婚したい(おそらくヘソンはこちらだろう)ものもいる。

それを非常に冷静な視点で描き、さらにところどころで長回しのショットが挟まれ、「お互いに絶妙な距離だからこそ生まれる沈黙」というものが、見事に表現されていた。

典型的で使い古されたラブストーリーを、洗練されたカメラワークによって新しく生まれ変わらせた傑作。
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