こなぱんだ

ボーはおそれているのこなぱんだのネタバレレビュー・内容・結末

ボーはおそれている(2023年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

アリアスター、数々の作品好きだったのに「ミッドサマー」がマジ全然響かなくて期待値あげて見に行った割にクソだなと、とても失望していたのですが、すんませんでした!!!!!!!!!

アリアスター版現代ユリシーズ(コメディ)です!!!!!!!!
ちなみによく巷で言われている狂気とかホラーとかサイコとかそんな要素は1つもねえと思う。ただの可哀想な人のコメディ。
誰がなんと言おうと、俺はこの映画は絶対にオデュッセイアとユリシーズだと言おう

ユリシーズは1人(厳密には主人公らしきやつが2人)の普通な男がダブリンの街をうろうろして、トラブルに巻き込まれる話(めちゃくちゃ雑に言うと)だが、ボーも母親の葬儀に行くためにうろうろ、そしてただただ受け身でトラブルに巻き込まれ続ける。

アリアスターの過去作だったり、ホアキンの代表作(?)のジョーカーのエッセンスを散りばめながら、基本的にはボー視点で進められていく話、けれども普通に見ていると、観客はボー視点を信じていいのかどうかわからなくなってくる(なぜなら登場人物たちと全く話が噛み合ってないから)

「もしや、ボーは正常な人間ではないのでは、、」なんて観客が思い始めるところに、野外演劇のエピソードが挿入され、ホアキン(ここでこの人が誰だかは不明、ボーかもしれないけど正確にはわからない)が「これは自分の話だ」などと言い出し、野外演劇はメタ的な構成で進められていくため、この映画自体が何層もの層によって作られているという構造が明らかになる。
このシーンで、私は完全にこの作品ユリシーズなんだと気づいた

そのあとボーは何とも簡単に(これまでめちゃくちゃ大変だったのに)実家へ到着し、実家の壁にはボーが発達障害の薬のモデルとして使用されてるポスターがあり、まあ、おそらくボーは発達障害なのでは、とかいう予想が立つ。

初恋(?)の女の子との再会、2人がセックスしたところでボーは母親から聞いていた「遺伝」の話が嘘だとわかり、自分が死ななかったことを喜ぶ(ここで観客は母親の呪いからの解放か?!と期待値をあげる)が、

母親は生きていて、やっぱりまだ母親の強力な呪いからは逃げられないという絶望、けれどもボーも発達障害がゆえに母親を傷つけてしまうというお互いの家族による憎しみをぶつけあった所で、よくわかんないバケモンに出会い、ボーは逃げます

そして、逃げるためにボートに乗り海へ。まさに、オデュッセイア帰還のシーン、しかもそれがやっぱり美しく撮るもんだから、ここでも観客は感動せざるを得ないんだが、

現代版ユリシーズの主人公であるボー(発達障害かもしれない)は、もちろんそのまま綺麗に終われるはずなどなく、そこで洞窟に入ったと思ったらコロセウムのような場所。

そこで、ユリシーズのラストよろしくこれまでの人生の裁きーー発達障害かもしれないがゆえに、他人と上手くコミュニケーションを取れない自分の罪を問われるのである。

死にたくない、死にたくないと言いながらボートが転覆し、そのままエンドロール。コロセウムにいた観客、そしてこの映画の観客である私たちは、ボーを助けることもなく、ただその場を後にするのみであるーーー

ここが、アリアスターの本当に恐ろしいところだと思う。
様々なテーマとエッセンス、オマージュなどをそこかしこに散りばめながら、現代版ユリシーズを作り上げてしまう、そしてそれがメタ的な構造としてもユリシーズのオマージュとして機能してしまう、そんな映画が作れることが、マジでびっくりだよ!!!!!!

大作です、本当に大作
ユリシーズが20世紀文学最高峰と言われて久しいが、この作品が21世紀映画の最高峰となってほしいと願うばかり。
マジで、すげえ
こなぱんだ

こなぱんだ