カッパロー

パスト ライブス/再会のカッパローのレビュー・感想・評価

パスト ライブス/再会(2023年製作の映画)
4.5
再会ーー時を超え、変わるもの、変わらないもの。

小学生の頃の初恋の相手であるナヨンとヘソン。ナヨン一家の移住をきっかけに離れ離れとなった彼らは、それから12年後に、再び繋がり、海を隔てて仲を育む。しかしそれも束の間、また疎遠となった彼らは、さらに12年後、NYにて再会を果たす。今度は大人になったその姿で。

一言で言うと、完璧だった。無駄な登場人物を一切出さず、ナヨン、ヘソン、アーサー(ナヨン夫)の3名のみ。この3名の心情の機微が克明に描き出されていて、3名とも「生きて」いた。

ナヨンは今の生活と夫に満足している。と同時に、かつてヘソンと恋した自分も(そこから変わって"ノラ"になったとはいえ)忘れていない。そのヘソンへの気持ちを、ナヨンの韓国人としての部分、韓国語を話す部分と重ね合わせ、アーサーの入れないゾーンとして提示した上手さには舌を巻いた。

そしてそのゾーンに、アーサーは不安を抱く。愛し合っている夫婦であるにも関わらず、ベッドでノラにたまらず語り掛けてしまうほどに。アーサーは、3人で話をしていても画角にすら入れてもらえない、この物語にとっての脇役である。(そしてそのことをアーサー本人が自覚していて甘んじて受け入れているのも面白い。)それでも、ノラにとってアーサーは大切な人であり、今世における「イニョン(縁)」なのだ。

この映画を一つ上のレベルに引き上げたのが、ラストシーンだろう。Uberまで送っていったノラとヘソンは、最後に向き合う。もうこれを最後に2度と再会しないことを予感した二人は言葉も発せられず、見つめ合う。悠久にも感じられた二人だけの時間は、Uberの到着とともに終わりを迎える。最後に言葉を交わしたナヨンは、別れと共に涙を流し、アーサーが優しく迎える。

今世ではもう会えなくとも、来世に期待を寄せるヘソンは、哀しくもあり、希望に満ち溢れたものでもあった。身も心もアメリカ人になり、英語を自在に操るようになり、泣き虫だった少女を韓国に置いてきてもなお、ナヨンにはヘソンと通ずる何かがある。それが「イニョン(縁)」であり、来世にも繋がる糸なのだろう。

個人的には、最後に涙を流したナヨンが本当に好きだな。「アメリカでは泣かなくなったわ、誰も何もしてくれないと気づいたから。」と言っていたナヨンだが、今はアーサーが隣にいてそっと抱きしめてくれるからこそ、24年にもわたる物語の相手との別れに涙を流せる。切ないが、これをハッピーエンドと言わずして何と言えよう。
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