くまねこ

パスト ライブス/再会のくまねこのレビュー・感想・評価

パスト ライブス/再会(2023年製作の映画)
3.9
「パスト ライブス/再会」上映中の最終日にグランドシネマサンシャイン池袋で鑑賞。

ソウルで初めての恋をした幼なじみのノラとヘソンが、24年後にニューヨークで再会する7日間を描くラブストーリー。
これは恋愛映画ではなく、「恋愛について」の映画であり、”運命”、人と人との”縁”という仏教的思想をも感じる小品ながら成熟した大人が愉しめる作品だった。

夜中のバーのシーケンス。彼女を中心に、左側に過去の男性、右側に現在の夫という時間軸の構図も納得できる。ヘソンは過去に向かう人物であり、ノラは未来をみつめる人物として描かれていた。

バーの帰り際、残されたヘソンと夫アーサーが、意思疎通が拙いながらなんとか言葉を紡ぎ出し、謝意を伝える何気ないシーンも良かった。これもノラが取り持った縁であり、前世から繋がった彼らの運命なのかも知れない。

映画の中で、2人は手を繋ぐことも、キスさえもない。ハグとお互いを見つめ合うだけ。その眼差しは、明日を見つめるノラに対し、過去を見つめるヘソンと対照的。きっと一緒になっても2人は上手くいかないはず。

映画の中で大きな事は全く何も起こらないのだが、観終わってても、ビタースイートな味わいと切ない感情が胸に残る。年齢を重ねた大人だからこそ味わえる人生の醍醐味と言えば良いのだろうか…。

ラスト、空港行きのタクシーが到着するまで見つめ合う2人の眼差し、そしてあの45秒程度の何とも言えぬもどかしさ…予想通り、ドラマティックな展開は何もなく安堵。

別れのキスもなく画面左側に去っていくヘソンを乗せたタクシー。彼は想いを伝えに来たのではなく、ただノラに会いに来た、自分が過去に想いを寄せた女性をただ確かめに来ただけなのかも知れない。
彼らの間には恋愛感情はなく、時を超えた深い運命のようなポジティブな感情だけが存在していたのだと思う。

ヘソンが少し涙ぐみながら夫アーサーと自宅に帰るシーンは幸福な一瞬が映っており、少しだけ胸が熱くなった。素敵な作品を観た満足が残った。
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