ひでG

ビヨンド・ユートピア 脱北のひでGのレビュー・感想・評価

4.3
同行の撮影隊の手持ちカメラやスマホで撮られた深夜、森林の中の逃亡。
最近観たどんな実写映画、サスペンス映画より、心臓がバクバク、脂汗がドクドクと出てきそうな感覚に陥った。

脱出というシュチュエーションは、サスペンス映画の18番。最近では同じ韓国作品「モガデッシュ」やベン・アフレックの「アルゴ」、歴史を遡れば「大脱走」やヒッチコック映画まで、私たちの鼓動を速めてくれたが、何しろ今回は、ドキュメンタリーだから、、捕まえるのは、あの国だから、、
それらとはまた違う緊迫感があった。

あの真っ暗な闇の森で、声を落として、手持ちライト🔦を制限しながら、小さな子を抱っこし、おばあちゃんも足を引きずりながら、、
「犬の吠える声が聞こえるぞ、ライトを消せ!」
「プロ〜カーはわざと同じ道を歩かせてるんじゃないか?」
「あと何時間歩くんだ?」

観ていて、苦しくて、苦しくて、「助けてあげて〜!」て、自然に手を合わせて観ていた💦

よーやく着いたラオスの隠れ屋。屋根があり、寝床があり、最低限の食糧があるだけのシンプルな宿泊場に、脱北者の家族は、
「ここがユートピアかもしれない。」て、にこやかに話しているのも、痛々しかった。

さらに、このドキュメンタリーの凄さは、単に脱出の緊張と恐怖だけを描いていないという点だ。(脱出だけでも、アジア大陸縦断の凄いものだけど)

脱北家族は、国際社会から隔離され、徹底的に管理された国家しか体験していない。

おばあちゃんは、「本当は脱北なんかしたくなかった。金正恩将軍は若いのに偉大な指導者で国民の為に努力されている。」と本心で話す。

小さな子どもたちは、金正恩を「世界一偉い方」と語る。
そーゆーインタビューの言葉以上に、彼らの祖国はかの国しかなく、彼らの体内にはかの国のDNAしか存在しないんだなって、「あ〜そうなのか〜」と、思わず天を仰ぎなくなった、何とも言えない虚しさと恐ろしさが現れたシーンが、、、

体力も気力も限界スレスレの真っ暗な森林を抜け出し、心から安堵した脱出家族が
支援者の車の中で自然に口に出たのは、祖国を讃える歌だった。それを歌う家族のホッとした表情。
何と表現したらよいか分からないけれど、
恐ろしいし、哀しいし、そんな感情も湧き立ってきた。

本作は、この家族と並行して、脱北に失敗した息子を心配する母親の姿も記録されている。お母さんは先に脱北に成功し、それを息子が追いかけ、国境の川を渡っている途中で捕まってしまったのだ。

失敗したらどうなるか、この母親の悲痛な叫びが、3代家族の脱北劇に更に緊迫感を増す働きをしている。
彼女の嘆きは、本当に辛く、悲しい。

彼ら脱北者を長年支援してきた韓国の
キム・ソウウン牧師。今までに1000人以上の脱北者を助けてきたとのこと。
現代のシンドラーだ!
自らの命もかけて人々を救ってきた人だ。心から尊敬します。どうぞ、ご自分の安全を第一にしてください。

タイに入国した家族は、その後韓国で今までの共和国での洗脳を解いてもらう。

彼らはカメラの前で堂々と自分の意見を述べていく。
北の政権は憎い、騙されていた時間の長さを思うと後悔が広まっていく。
だけど、ずっと住んでいたあの村、近所の人々を想うととても寂しくなって、どうしようもなくなる。

何と酷いことをしてきた、している国家、
いや、国家の仮面を被った犯罪集団なんだろう。

重くて深い大変貴重な、貴重なドキュメンタリーだった、、

もっと多くの方に観てほしいし、一刻も早く南北が統一されることを願います。
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