ナーオー

ブギーマンのナーオーのレビュー・感想・評価

ブギーマン(2023年製作の映画)
5.0
今年劇場で観たホラー映画としてはベスト!

正直舐めてました…

脚本を務めたスコット・ベックとブライアン・ウッズ。『クワイエット・プレイス』1作目の脚本家コンビで知られていますが、この2人が脚本&監督を務め、日本では今年5月に公開された『65』があまりにもつまらなく、あれの印象が悪すぎて、本作はそこまで期待していなかったのですが……

まさかの今年ベスト級の傑作でした!

プロットは確かにクラシカルで王道。
しかし『ズーム/見えない参加者』のロブ・サヴェッジ監督による非常に手慣れたジャンプスケアなどの恐怖演出が各所に光り、しっかり"怖い映画"として作られていました。

脚本家のスコット・ベックとブライアン・ウッズ。彼らが脚本を担当した作品はどれも粗っぽいところが多いですが、本作は彼らの脚本がまずは見事。本作はスティーブン・キングの短編小説『子取り鬼』を原作にしていますが、実は原作小説の続編として作られています。もしかすると彼らが監督も務めた『ホーンテッド 』や『65』も脚本に専念し、監督はホラーやスリラーを得意とする職人監督に任せていたら、そこそこの良作になっていたのかも…

そして本作で一番の功績者である監督のロブ・サヴェッジ。恐怖演出はジャンプスケアが多めですが、その多くがこちらが思っているよりもワンテンポ早めにやってくる。そして一見感動的な場面でも容赦なく恐怖演出が挟まれており、なかなか油断できない作りだったことが良かったです。

前半は幽霊もの、後半はモンスターものへとシフトチェンジしますが、クライマックスではその場にある物を使ってモンスターに立ち向かう というスコット・ベックとブライアン・ウッズが得意とするサバイバル・ホラー要素も盛り込まれ、とても楽しかったです。

主人公家族を演じる、クリス・メッシーナ、ソフィー・サッチャー、ヴィヴィアン・ライラ・ブレア、この3人の役者陣の演技も良かったですが、『ザ・スーサイド・スクワッド』のポルカドットマン役でお馴染みのデヴィッド・ダストマルチャンの怪演が特に素晴らしい。彼が演じたレスターという人物は原作小説の語り手であり、本作では序盤のみの登場なので出演時間は短めながら強烈な印象を残していました。

ちなみにこのレスターは原作ではいわゆる、"信頼できない語り手"ですが、本作はこのレスターはもちろん、主人公家族にも"信頼できなさ"があるのが面白かったです。よく考えればブギーマンの姿を見たのは主人公一家とレスター家しかいない… 考えれば考えるほどゾッとさせられる…

個人的にはブライアン・ベルティノの『ダーク・アンド・ウィケッド』のマリン・アイアランドが劇中、とある役で出演していたもの嬉しかったです。

またモンスターの正体についての説明がない などの賛否両論になっている部分。フィルマークスもそれが理由で点数が低いようですが、逆にそれを過剰に説明すると怖さがなくなってしまう。観客の解釈に委ねる本作の作風は説明されないからこその不気味さが増しており、とても良かった。

それに原作はスティーブン・キングです。キングの言葉を借りれば、"悪夢に理屈や解釈は無用。ホラー作品の登場人物たちは(なぜ)と問いかけるが、その理由はなく、理由があってはならない。なぜなら謎は謎のままでこそ人々の記憶に残り続けるから" 。

本作『ブギーマン』はそのキングらしさをしっかりと継承しつつ、ロブ・サヴェッジ監督の演出、スコット・ベックとブライアン・ウッズの脚本とアイディア、俳優陣の見事な演技によって、平凡なホラーに終わっていない。実は物凄い傑作だと思います。今年劇場で観たホラー映画としてはぶっちぎりベストです。

パンフレット販売なしというのが残念なところですが、『スマイル』や『死霊のはらわた ライジング』、『レンフィールド』のように劇場未公開でビデオスルーになっていた可能性すらあるので、公開してくれただけでも感謝したいです。
ナーオー

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