チェさん

夜明けのすべてのチェさんのレビュー・感想・評価

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
3.8
「いつでも夜明け前が一番暗い」

すぐそこにありそうだけど、僕は通ったことのない物語だった。

特に良かったのは、映画のタイトルの出し方と、音楽と街の広いカット。
パニック障害について調べる藤沢さんから、夜の街並み、そして暗い部屋で膝を抱えて寂しそうな山添、からの朝の藤沢という時間の飛ばし方が最高だった。同じような夜をそれぞれ過ごしているのが、人ごとじゃなくて自分もその中の一人のようにも思えて、まじよき。
音楽も一貫して同じものを使っていることで、物語の変化に敏感になれたし、意味合いが変わってくる感じがして、日常とその微かな変化をうまく感じさせてくれた。

物語の最後の方に、"夜がなければ、地球の外の存在にも気づけなかっただろう"みたいなセリフがあったけど、心の底から肯定したい。
辛い状況にいるとき、その只中はまじで最悪すぎるけど、その辛さを知らないと見えなかったことってたくさんあると思う。(たまに、いろいろ頑強すぎて他人への配慮0の圧々人間いるけど、ああいう人って本当、ちっとも夜を知らないんだろうな、ある種、すげえなと思うけど。)
弱かった時の経験って、まじで1番人生の教訓になるし、弱い強いの価値判断は各々に任せるけど、やっぱ己の弱さを一度知るのは意味のあることだなと改めて思った。
ただ時が過ぎれば辛いことも過ぎてゆくみたいな逃げの姿勢はとても嫌いなので、ちゃんともがいた上で努力した上で夜明けを迎えていった登場人物たちでよかった。

わりとタイトめなカットが多くて、感情移入もできたし、広い街カットもスパイス的に効いてて好きな編集だったし、全体的に好き度高い。
ただあえて言うなら、リアルで素朴な物語だったからこそ、"演出!"みたいなところが若干気になった。ペン落としたり、髪切るシーンがちょっと演出味を感じて、もちろん映画だから全部演出なんだけど、もうちょっとシンプルでもよかったかなと。まあ好みです。
全体的にほっこりするし、とても心の健康にいい映画でした。
チェさん

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