チェさん

PERFECT DAYSのチェさんのネタバレレビュー・内容・結末

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
3.3

このレビューはネタバレを含みます

「こんどはこんど、いまはいま」

平日は、明け方からトイレ掃除の仕事に出かけ、神社のベンチでサンドイッチと牛乳でランチをすませ、まだ空が明るいうちに帰宅しては銭湯に行く。行きつけの店で一杯ひっかけて、小説を読み、眠りにつき、また同じ日々を繰り返す。
こんなにも同じ行動を映画の中で繰り返し見せられることって、まあないよな。
でも、それは画角が少しずつ変わっているように全く同じものではない。平凡な日常の中にある、確かな変化というか時の流れというかというものが描かれている。それが、木漏れ日ってことなんだろうな。

主人公のルーティンに対する明確な意志は、劇中に何度も映されたスカイツリーみたいにまっすぐな哲学を感じて好きだし、大学の頃を思い出してとても共感した。大学2年生くらいのときにボロアパートでルームシェアしていた。そのときも平山のように毎日のようにレジ打ちのバイトにいき、バイト終わりにジュースを買って飲みながら帰り、大学に通っては近くの古本屋で本を買って読んでいた。休日もコインランドリーにいき、国立映画アーカイブでただ映画を鑑賞しては帰りに浮いた金で高島屋のデパ地下でお菓子買って帰ってたし、まじで平山みたいな生活だったな。
手持ちのお金でできる最大限の楽しみを味わいつくしていたし、その瞬間瞬間をルーティンだけど意志持って過ごしていた。あれは、まさににPerfect Daysだったな。
いまとなっては、5年後同じように仕事をしていて大丈夫だろうか?貯金じゃなくて投資して今後のライフイベントに備えないと…などなど、今よりも明日を見てばっか。そんな焦燥感をドーパミン過多の飲み会で発散してばっかで、この映画みたいな腹の底から出てくる幸福感みたいなの最近少なくなってるかも。
それに気づかせてくれたという点で、とてもありがたい映画だった。

ただ、とても共感したからといって、とても好きな映画となる訳ではないんだなということもわかった。音楽もいいし、映像もいいし、でもそんなに好きじゃない。不思議。
たぶん、主人公が寡黙のくせに時たま喋ったと思ったら、ひどくセリフっぽいセリフを言うからなんだろうな。
日常を日常として賛美しているなら、もっとセリフもつまらなくして欲しかった。
あと、ラストのシーケンスは役所広司すげえと思ったけど、なんで泣いているのかよくわからなかった。失恋?それとも逆?観客が泣くならわかるが、平山が泣く意味がちょっと読解力と共感力が足りずわからなかった。
あとは平山が実はボンボン育ちという設定がゆえに、あの生活そのものの美しさが僕としては薄まった気がした。選択的にあの生活を選んでいるという意志は強く感じたが、もはや金持ちの道楽の枠を出ない気もするし。もちろん縁は切ってるんだろうけど。

まあ好きじゃないところもあったけど、綺麗も汚いも酸いも甘いも全部ひっくるめて、いまこの瞬間一度切りの日々を味わって生きていく幸福を改めて教えてもらえたのは良かった。
あと個人的に東京のトイレが汚なすぎて入ってぶちキレたことが何度もあるので、平山様には今後も東京のトイレを何卒よろしくお願い申したい気分です。
チェさん

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