ひでG

夜明けのすべてのひでGのレビュー・感想・評価

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
4.2
監督と皆さんの高評価への信頼からチョイスしました。
予告編を見ただけでは正直どういう映画なのかイメージがわかなかった。病気を抱えている同士の話だということだが、予告編のセリフが淡々と聞こえてきて、、
朝一番の回、あまりお客さんは多くない。

始まって、すぐに上白石萌音演じる藤沢美紗独白から始まる。
会社でひとり興奮している美紗。怒りが収まらない彼女を回りの上司や同僚が必死に止めているが収まらない。
その後、彼女はその会社を退職し、今の栗田化学工業に勤める。

PMS(月経前症候群)ネットで調べてみると、20人に1人。中等症以上の人たちは180万人以上いるらしい。
申し訳ないが、この病気のことについて殆ど知らなかった、というか深く突っ込んじゃいけないんじゃないかと言う思いもあった。

もう1人松村北斗が演じる山添は、2年前に前職でパニック障害を発症し、栗田で勤め出した。
パニック障害の方は同じ職場でご一緒したことはあるが、実際にどんな苦しみを抱えているか、リアルに考えることができなかった。

そんな2人が回りの人々の支えもあり、段々に理解し合い、支え合う仲間になっていく姿をゆっくりと日常的な出来事を積み重ねて丁寧に描いていく。

前作「ケイコ 目を済ませて」では、主人公が聴覚障害者の女性ボクサーだったこともあり、ボクシングと言う能動的なエモーションと聴覚が不自由な生活と言う静かな彼女の世界の対比や人物の抱えている困難さ(勿論僕らが理解している何十倍も深いものだろうが)を目で見て、近付くことができた気がした。

しかし、三宅唱監督が挑んだのは、PMSやパニック障害という絵として表し難い苦悩をテーマ。

これを安い日本映画の悪しき見本である「感動の押し付け」や「やっぱり恋仲」の話にしたら目も当てられない凡作になっただろう。
あるいは、この2人を端から偏見で除外したり、口撃したりする「悪役」が出ていたら、、観客は、その悪役憎しで、2人の内面に近付けなかっただろう。

三宅唱監督は、実に綿密にこの物語を紡いでいった。日常的な生活の眼線で2人を包み込んていった。
そう、映画全体で、ありのままの2人を温かく、優しく抱くように。

映画の隅々まで優しい。だから、脇役の方々が本当に素晴らしい!

特にこの2人!
山添くんの元同僚で、ずっと山添くんの前職復帰を願い努力してくれていた渋川清彦さん、
藤沢さんの職場で、彼女に常に気遣いを欠かさない先輩、久保田磨希さん、

政治が本当にダメだったり、殺伐とした事件や弱き人たちが救われないことが多いこの国も、渋川さんや久保田さんが演じた市井の無名な人たちの優しさで成り立ってんだよなって心から思わせてくれた。
渋川さんの涙、久保田さんの微笑み、思い出すたびに涙が込み上げる。

社長の弟さんを紹介する藤沢さんの言葉にも落涙。それは、優しい優しい涙だった。

主役の2人も難しい役をすごく良く頑張った。
藤沢さんが山添くんの髪を切るシーンには、笑ったなあ、
移動プラネタリウム成功おめでとう!って、もう親類のおじさんの気持ち。

小説の中(あるいは紹介?未読なので不正確で🙏)こんな言葉が綴られている。

「人生は想像より厳しくて、暗闇はそこら中に転がっていて、するりと舞い込んできたりします。でも、夜明けの向こうにある光を引っ張ってきてくれるものも、そこら中にきっとあるはずだと思いたいのです。」
 
誰にも言えず独りでそれを抱えて、もがき苦しんでいる人が、この映画に、この本に出逢て、少しでも夜明けを信じてくれたらいいなあ、と思う。

これからの自身の生き方にもチカラをくれる映画だから。
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