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夜明けのすべてのmanamiのレビュー・感想・評価

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
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三宅唱監督作品は『Playback』『きみの鳥はうたえる』『ケイコ 目を澄ませて』どれも好きだけど、今作はそれらをさらに上回るくらい、私のど真ん中をギュッとつかんでくる。期待も想像もはるかに超えてくれる。
PMSに10年以上悩まされ、自分を見失い転職にまで至った経験を持つ藤沢さん。パニック障害を発症した自分を、いまだ受け止めきれていない山添くん。(自己流曝露療法にはヒヤヒヤしたよ!)もがいたり反目しあったり自棄になったり、ちょっと勇気を出してみたりしながら、自分自身と向き合い続ける。
その姿を見守っているうちに、二人のことが愛おしくてたまらなくなってくる。そうやって外側から応援するまなざしと、共感して感情移入する内側の視線とが、両立してしまうという不思議な現象も体験できる。
自分の身体なのに思い通りにならない、そんな現実をネタにして笑い合う場面。正直、このコンプラ時代に大丈夫かと一瞬ドキリとする。でもこのやりとりに至るまでの二人の距離の変遷を知っていれば、すぐに気づくのだ。もちろん相手を揶揄するわけではなく、かと言って痛々しい自虐でもなく、信頼と許容と安心と尊重と、そういう誇らしい関係の表現なのだと。
自分のことなのに自分でコントロールできない。それは確かに生活する上でさまざまなことを引き起こす。だけど。完全に自らを制御できてる人なんているのか。不完全さにこそ人間らしさは集う。髪だって。ちっとも思い通りになんてならない。それを切ってもらう。切ってあげる。ああ、美しいな、と素直に思う。
忘れ物発見からのくだりも、今後も定期的に見返したくなるくらい素敵だ。ようやく皆と同じ服に袖を通し、わざわざ自転車を取りに行って、立ち去り方もその後も完璧で。このくだりが好きすぎて、鑑賞後はたい焼きを買って帰りましたよ。
他にも素晴らしいシーンがひっきりなしに現れる。お守りを買いすぎるのも、藤沢さんの報告をあっさり受け止めるのも。一つ一つの場面に深い想いを感じる。
二人を見守る人々、住川さんや社長やそのほか栗田科学の皆さん、山添くんの元上司の辻本さん、誰も彼もが温かい。私は「ぬくみ」という言葉が「ぬくもり」よりもさらに血が通っている気がして好きなのだけど、この作品の登場人物たちからはそれがしっかり伝わってくる。
それから、あの子は距離感からしてあの人の子なのではと思ってたら、鑑賞後に読んだパンフレットにそう書いてあった!言外でそれを表現できることに畏怖の念すら抱かされるわ。
パンフには「夜について」の全文も載ってる。あの場面は作中人物たちの感情的にはハイライトだろう。言葉のひとつひとつも良いし、音の塊としてまるでお経のような心地良さもある。
この原作は未読だけど瀬尾まいこさんの文章も好きだし、映画との違いも気になるので、是非とも読んでみたい。

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