よねっきー

シアター・キャンプのよねっきーのレビュー・感想・評価

シアター・キャンプ(2023年製作の映画)
4.4
先行するミュージカル作品への愛とパロディをたっぷり詰め込んだ映画……みたいに予想していたので、溢れ出るオリジナリティに驚いた。かなり自由、かつ意欲的!

オートフォーカスの手持ちカメラや覗き見風の構図、ケレン味のない演技、テキストで語られる文脈などなど、「ホントっぽい」演出の数々が結構良かった。だけど決してモキュメンタリーではない。というか、作り手はモキュメンタリーであることにもフィクションであることにもこだわっていない、ように見える。そういうのびのびとした姿勢(越境性)が、しっかりハマる映画だったように思う。物語における決定的な瞬間がテキストによって省略されるのも良いじゃん。低予算映画のひとつの可能性だと思う。

物語のテーマは結局「ミュージカルっていいよね!」なんだと思うが、劇中では「ミュージカルはイカれた営為だ」ということが指摘され続ける。老若男女の変わり者、即ち社会のはみ出し者たちが大集合し、歌い踊る。冒頭の「ミュージカル=ゲイ・プレイ」という提示や、トロイが子どもから「シスヘテロ!」と暴言を浴びせられる瞬間なんかは象徴的。ストレートこそがマイノリティの世界である。
儀式じみたワークショップは不気味だし、「涙ドーピング」をした子どもを大人2人が叱責する場面なんかはちょっと常軌を逸している。観る人によってはトキシックにさえ映るかもしれない。しかし映画はミュージカルを自虐し、それによって肯定する。

ジョーンという「不在の中心」を彩る物語が楽しい。自分について歌われた歌をトロイが聴く瞬間はグッと来るし、ジョーンのためのミュージカルが最後にジョーンではなく「見知らぬ誰か」に届いてしまうというユーモアも、ナラティヴの持つ美しい可能性を指摘しているように思う。裏方に回る大人たちの尊さと同時に、彼らが内に秘める「舞台に上がりたい」「自分が演じたい」「スポットライトを浴びたい」という原初的な熱意が提示されるのも良かった。人生は喜劇名詞!
よねっきー

よねっきー