耶馬英彦

ブルックリンでオペラをの耶馬英彦のレビュー・感想・評価

ブルックリンでオペラを(2023年製作の映画)
4.0
 タイトルを見たとき、先ず「ストックホルムでワルツを」という、似たようなタイトルの映画を思い出した。歌手デビューに憧れるシングルマザーの物語で、ビル・エヴァンスを尊敬している。タイトルは、彼の作曲した代表曲「ワルツ・フォー・デビー」から引用したと思われる。割と面白いスウェーデン映画だった。
 次に思い出したのは、ボウリングで右投げの人が1番ピンの左側に球を当てるのを、ブルックリンと呼ぶことだ。ボウリングをたまにしていた頃、ブルックリンでストライクが出ることがあった。
 しかし本作品の原題は「She Came to Me」である。意訳すると「彼女が僕に降ってきた」となる。そちらの方が内容に近かった気がする。ただ、邦題のおかげでいろいろ思い出せたのはよかった。

 さて、パトリシアは精神科の開業医で、十分な収入があり、息子は品行方正、成績優秀、夫は作曲家だ。夫は小人症だが、気にすることはない。おおらかな女性だと思っていたら、突然不満を爆発させたり、素っ裸になって叫んだりと、見た目とは異なって、心に闇を抱えていることが分かる。如何にも人間らしくて、いい感じだ。アン・ハサウェイはコメディエンヌとしてのポテンシャルを存分に発揮したと思う。

 本作品は原題、邦題、いずれのタイトルからも想像できない愉快な方向に展開するが、物語の中で、ルッキズムやレイシズム、パターナリズムなど、アメリカが依然として抱える問題をさりげなく散りばめている。そして、それをコメディにしたところがいい。とても楽しく鑑賞できた。
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