こういう厳しい社会の中で人の優しさを描いたリアルな作品が観たかった。コロナ禍の香港が舞台。清掃会社を営むザクがそれまでどんな人生を送ってきたかは語られないが、苦労人の寛容さと社会を生き抜いてきた誠実さがある。
災いにしか見えないシングルマザー・キャンディーを信頼しては裏切られるザク。同じ底辺の暮らしをしているザクだから痛みがわかるし、自分を信じているから、キャンディーを信じようとする。
ザクを演じるルイス・チョンの演技が素晴らしく、また現実的で細やかな脚本に、監督の人を信じる力を感じられた。
＜不運は永遠に続かない＞
観ていないので比べるべきではないのだが、「Perfect Days」の平山が仙人だとしたら、ザクは欲も野心もあり、怒り悲しむ。キャンディーは狡くたくましく生き抜いてきたが娘のために良くないことだとはわかっていた。心の揺れの描写がリアルだった。
娘ジューが万引き常習犯の母に倣って万引きしているのをキャンディーが止めさせたシーンが印象に残った。
誠実に生きることは＜感染する＞。何に倣うか。
香港を後に海外へ移民する人が多く、街が荒廃している様子やコロナ禍で清掃の道具も品不足だったり、職もない。それでもそこで生きていかねばならない人びとが描かれていた。
現実的な帰着だが、余韻がしっとりとしていた。希望と人への信頼を残した。ラム・サム監督が次に何を撮るのか気になる。
