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12日の殺人のMrOwlのレビュー・感想・評価

12日の殺人(2022年製作の映画)
3.9
原題はThe Night of the 12th (French: La Nuit du 12)、「その12日の夜」という感じでしょうか。
含みは「その12日の夜」の方がありますが、「12日の殺人」の邦題の方が、引きがありますね。
ミステリー好きとしてはフランス、ベルギー合作という点で、必ずしもハッピーエンドではなく、嫌な感じ、不都合な秘密が暴かれるような展開もあるかも、と期待が膨らみます。さらに、監督が「悪なき殺人」のドミニク・モルとなれば尚更。
主演はバスティアン・ブイヨン。長身で落ち着いた顔立ちの俳優さんです。多数のTVドラマ、映画に出演しているようですね。抑制の効いた、それでいて内面に渦巻く事件を解決したい執念、上手くいかない捜査に対する苛立ち、それを昇華するような、もしくは自分を罰するかのような夜の自転車スプリント場での姿が印象的でした。また相棒で部下でもあるマルソー役のブーリ・ラナーズも良かったです。班長であるヨハン(バスティアン・ブイヨン)よりも年上ですが、信頼して悩みを打ち明けたり、犯人に対する怒りから「このままでは憤怒に囚われてしまう」というような深みのあるセリフを言ったりするところが、冷静なヨハンと対象的な人間味のある老練でそれでいて哀愁のある中年男性の魅力を感じました。
チームのメンバーそれぞれが、個性があって良かったです。また被害者の友人のナニー役を演じたポーリン・シリーズさんと被害者となってしまったクララの母親役のチャーリーン・ポールさんの演技は胸に来るものがありました。素晴らしかったです。
あらすじにもあるように、10 月 12 日の夜、ある女子大生が何者かに殺され、捜査にあたった刑事達はこの“未解決事件”に徐々に蝕まれ、あるいは取り憑かれていきます。
本作はどちらかというとミステリーというよりはある事件に関わった刑事、被害者の家族、友人達の姿を行間を広くして描いている、と感じました。キザな表現をすれば、詩的な映画、とでも言いましょうか。あまり説明的なセリフはなく、各人物を深掘りするような描写はありませんが(あるいは敢えてそういう演出にしているかもしれませんが)、事件や捜査を通じた会話や、食事のシーンでの会話などから、その人物の人となりや価値観を窺い知る、という映画になっていると感じました。派手なアクションや劇的な展開を抑えた、味のある映画、味わい深い映画でした。
以下は監督と舞台となったグルノーブルの補足情報です。
監督はドミニク・モル。父親はドイツ人、母親はフランス人で、ドイツで育っていますが、現在の国籍はフランスのようです。ニューヨーク市立大学で学んだ後、フランス映画で助監督などを経て1994年にデビューしています。2000年の『ハリー、見知らぬ友人』でセザール賞監督賞を受賞しています。
近年の作品では「悪なき殺人 」(2021年公開)が秀逸です。ちなみに、「悪なき殺人」には、「ボーは恐れている」や「理想郷」などにも出演している印象的な俳優のドゥニ・メノーシェが出演しています。ドゥニ・メノーシェの演技も見事なので、興味を持たれた方は観てみてください。
また、本作の舞台はフランスの南東の都市、グルノーブルです。映画でも描かれているように山間の都市で、Googleマップで見ると、パリからはかなり距離がありますね。アルプス山脈の麓、イゼール川沿いに位置しており、周囲を大きな岩山で囲まれています。岩山を刳り貫いたバスティーユ城砦もこの地域にあります。砦にはイゼール川を跨ぐロープウェイで行くこともできるそうです。人口は15万8千人くらいなので、日本では北海道の釧路市(16万8千人)、静岡県の磐田市(16万6千人)、神奈川県の鎌倉市(17万2千人)くらいの規模感です。位置的には、地中海寄りでマルセイユの方がパリより近いですね。東側のイタリアの都市トリノ、北東のスイスのジュネーブの方が近い、そんな位置付けです。
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