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ありふれた教室のMrOwlのレビュー・感想・評価

ありふれた教室(2023年製作の映画)
3.8
良作でした。
ただ、ある意味、閲覧注意の映画かも知れません。

ドイツの学校が舞台とはいえ、
誰もが似たような苦い経験をしたことがあるかも知れないので。
学校内で起きる事件は色々ありましたし
色々な性格の生徒が居るので摩擦も起きますので
当事者、関係者、傍観者、どれかには当てはまるでしょう。
ある事件の当事者になってしまった人は、
トルコ系のアリ君や、
レオナルト・シュテットニッシュ君演じるオスカー少年に、
学級委員として友達と教師達の板挟みになったことがある人は、学級委員の男の子と女の子に、
先生に𠮟られた経験がある人は素行があまりよろしくなく、ちょっとヤンチャな子に、
少年時代の誰かにどこかしら共感するのではないでしょうか。
同時に、教員たちとの人間関係の煩わしさは、
社会人なら組織での立ち回りの面倒くささなどと重なる部分も多いかと。

物語の序盤ではレオニー・ベネシュ演じる教師のカーラ・ノヴァクの言動には
いや~、その対応はどうなの?、と、ちょっと共感しにくい部分があったのですが、
理想主義的ではあるものの、自身の保身よりも、生徒のことを第一に考えていると分かってくると
カーラを好意的に見ることができました。
レオニーベネシュの演技と監督の演出の妙、そしてオスカーを演じたレオナルト・シュテットニッシュ君の演技が
最後に少しある種の救い・希望を感じさせてくれましたね。

ちょっとルービックキューブやってみたくなった笑。

「7年生」というセリフが出てくるので、中学1年生くらいなのかと思われるものの
中学1年生よりは少し幼い感じがしました。
でも自分もそんなもんだったのかも知れませんね。
制服ではなく、私服なのも、幼い印象を与える方に働いているかも知れません。

生徒と教師という属性の社会が抱える問題の他に
ドイツの学校ということもあり、ゲルマン民族以外の民族も共存することの問題も示唆されます。
生徒には白人の子、アフリカ系と思われる黒人の子、
トルコ系の子など様々な民族の子がいます。
ヒジャーブと思われる布を纏っているので、イスラム教徒と思われる女の子。
教師であるカーラも、ドイツ育ちではあるようですが、ルーツはポーランド系のようです。
同じポーランド系の同僚男性教師には、ポーランド語?では話さないで欲しいと頼んでいたりします。
また赴任している学校の方針は
「ゼロ・トレランツ/zero・Toleranz」≒「ゼロ・寛容」≒「不寛容/Intoleranz」
ということで、なあなあにせず、細かく調べるということのようですが
細かく調べることと情報開示や説明、共有のバランスが悪く
そこが様々な疑心暗鬼や憶測を生み、また別のトラブルを起こす種になっている感じがリアルでした。

カーラを比較的好意的に見ることができたので、
改めて教師って大変だよなぁと思いますね。
常に、1対多ですからね。
しかも
対峙するのが、生徒10名以上だけでなく
その保護者達も含まれますから。
さらに教員達と関係が良好でない場合は
対生徒グループ
対保護者グループ
対同僚教師グループ
と3正面で戦わなければなりません。
こんなの無理っす笑。

やっぱり立ち回り方とか味方を作ることの重要性というか
孤立することの怖さ、過酷さも良く描かれているなと。
象徴的なシーンもありますし。
なのでなかなかに心がざわつく映画ですが、先述の通り
最後に少しある種の救い・希望を感じさせてくれたのは良かったです。




以下、参考情報です(少しネタバレ含みますのでご注意ください)。
画角は4:3のスクリーンっぽいサイズでした。
監督のイルケル・チャタク氏もトルコ系。
本作は構想から3年をかけて制作された。
撮影は取り壊される予定だったハンブルクの廃校で27日間かけて撮影されたとのこと。
監督は学生を正確に描写する方法として、プロの映画の経験のない俳優を選出。
この物語のインスピレーションは、イルケル・チャタク監督と脚本家のヨハネス・ダンケルが
イスタンブールの学校訪問したときに、クラスの二人の男子生徒が実際に盗みを働いていたのを目撃したところから得ている。
脚本家のヨハネスには、ドイツのケルンで数学の教師をしている妹が居る。
本作で描かれているような窃盗事件も実際に起きており、学校コミュニティなどの社会がこうした憶測や偏見などにまみれている点を興味深いと感じ、映画化を考えた。
教師カーラ・ノワク、は理想主義のキャラクターとして描かれている。
ドイツでは1が最もいい成績で6が最も悪い成績なので、数字が少ない成績で喜んでいる生徒が居るのはそういう理由。
サスペンス、スリラー系ではなく、人間ドラマ系として見た方が良いです。
サスペンス、スリラー系として期待して見ると、解決しない点があり消化不良になります。
(解決しない点が監督が描きたいものとリンクしないというか、そこが焦点ではないため)
学校生活にあまり良い思い出がない人は、嫌な記憶がフラッシュバックするかもしれないので、少し引いて見るとよいかと。
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