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関心領域のMrOwlのレビュー・感想・評価

関心領域(2023年製作の映画)
4.1
ホロコーストを題材にした作品は数多くありますが、
本作は視点と描かれている舞台が従来の作品と大きく異なる作品ですね。
アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所の隣にある大きな邸宅が舞台です。
居住者は収容所の所長ルドルフ・フェルディナント・ヘスとその家族。
そして使用人が数名。邸内が広いことに加えて、庭も広く、プールまであります。
敷地は相当広いですね。豊かな暮らしぶりが伺えます。
ですが、その敷地に接しているレンガ色の壁の向こうでは、ホロコーストが進行中です。
壁の向こう側、収容所の内部を描かないことで、その異常さが際立っている感じがします。
庭ではヘスの子ども達が無邪気に遊び、壁の向こう側の煙突からは煙が上がっている。
時折怒声や叫び声、うめき声が聞こえ、銃声も聞こえる。
ヘスの一家はそれを日常の音と捉えており、いちいち反応しません。
異常さが日常になっている怖さがそこにありました。
ヘスの妻と友人たちはダイヤを見つけた話をにこやかにしていますが、そのダイヤはどこから?
女性の肌着が大量に届き、使用人たちで分けるように伝えられますが、それはどこから?
ヘスの妻が試着している高級そうなコートはどこから?
異常な日常の怖さが描かれています。
また、冷静に打ち合わせられる焼却炉の話と、煙突の煙とが繋がり、
さらに庭師が畑に撒いている灰のようなものと繋がったとき、背筋が凍りました。

BGMもどこかしら不気味というか不穏な音楽で、
心がざわつくように響いてくるのも良い演出だと思います。

また、終盤では更に意外な演出が加わり、
この映画の題材となっているホロコーストが
本当に過去に起きた凄惨な事実である、ということを
観客に直視させるシーンがあります。
これが凄かったです。
意外性もある演出なので演出としても良いですし
見せてくれるシーンの内容も胸にくるものがありました。

異常な日常を描くことで、サスペンス映画のような緊迫感があり
じっと見入ってしまう映画でした。

以下、本作に関する参考情報です。
収容所の所長のヘスとナチ党副総統(総統代理)のルドルフ・ヘスは別人です。
ジョナサン・グレイザー監督(「アンダー・ザ・スキン 種の捕食」の監督)が脚本も手掛けています。
本作はイギリスの作家マーティン・エイミスの小説を原案にしています。
小説では架空の人物でしたが、監督が収容所の所長ルドルフ・フェルディナント・ヘスを取り上げることにしたそうです。
グレイザー監督はホロコーストを実行した者たちがしばしば「ほぼ神話的なまでに邪悪な」者たちとして描かれていると考え、
そういった点について神話性を排した映画を作ることを志し、本作を制作。
オリジナルのヘス邸は、終戦後は個人の邸宅として使用されていた。
プロダクションデザイナーのクリス・オディは収容所の壁の向こうにある廃屋を
数ヶ月かけてヘス邸のレプリカに改造し、撮影開始時に花が咲くように2021年4月に庭の植栽を始めた。

ルドルフ・フランツ・フェルディナント・ヘス(1901年11月25日-1947年4月16日)は、
ドイツの政党国家社会主義ドイツ労働者党の組織親衛隊の将校で最終階級は親衛隊中佐。
第二次世界大戦中にアウシュヴィッツ強制収容所の所長を務め
移送されてきたユダヤ人の虐殺(ホロコースト)に当たる。
戦後はイギリス軍に逮捕された後、ワルシャワへ移送され、ポーランド政府にその身柄を引き渡された。
7月30日にクラクフ・プワシュフ強制収容所所長だったアーモン・ゲートらと一緒にクラクフへ移送された。
同地で裁判にかけられ、1947年4月2日にポーランド最高人民裁判所より死刑を宣告された。
1947年4月16日、彼が大量のユダヤ人を虐殺したオシフィエンチム(アウシュヴィッツ)の地で絞首刑に処せられた。

アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所
現在のポーランドの南、チェコやスロバキアの国境近くに位置しています。

ホロコーストを描いた作品で良いと思った作品
シンドラーのリスト
ヒトラーの偽札
ユダヤの黄色い星
復讐者たち
などです。
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