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窓ぎわのトットちゃんのcyphのレビュー・感想・評価

窓ぎわのトットちゃん(2023年製作の映画)
3.3
正直期待しすぎた この世界の片隅にと並べて語られてるのをあちこちで見かけてそれなら、と腰を上げたけど大した爪痕も残さず通りすぎてしまった

原作を読んだ小学生のころにはトットちゃんがお金持ちのお嬢さまであるって目でこの作品に触れてなかったので、考証をしっかり行い、たとえば学園にヤジを飛ばしにくる近所の悪ガキ達とトモエ学園の生徒たちとの服装の色合いの違いなどで現実をまざまざと見せつけるっていうのは映像化ならではのチャレンジで面白かったと思う すっかり忘れた気でいたけど電車の校舎や山と川のお弁当などいくつか記憶の片隅に残ってたディテールもあった なにより黒柳徹子という圧倒的な成功事例がすべてを正しかったんだと裏づけるアッパーカットの強烈さ

冒頭に聞こえる彼女自身の声に既にこころは震えたのだけど、本編自体は「お金持ちの子どもが生まれの幸運さ故にのびのびやっておりました」ということを延々見させていただく時間ってかんじだった トットちゃんの振る舞いには生理的にイラッとさせられるものも多いのだけど、それをすべて受け入れ見守りましょう、というトモエ学園のモットーに作品全体が全面降伏してるのでどちらかというとアンガーマネジメント研修に近い 映画脚本の基本メソッドでいけばトットちゃんが何か困難に当たり、その姿に観客が心を寄せ、その困難を克服する瞬間に感情を一気にトットちゃんの側に寄せる、というシークエンスが冒頭しかるべき場所に挟まれるべきなのだけど、そういったサービス精神は一切持ち合わせない剛健な作品だった

もちろん観客への目配せゼロでやりたいことをやる作品はそれはそれで好ましい場合も多いのだけど、この作品のプリキュアみたいなキャラクターデザインとは全く一致しておらず、すべての出来事が500メートルほど向こうで起こっていた、という感触 電車・水泳・悪夢のアニメーションはとてもよかったけど、それら合計10分そこらのために2時間全体を手放しに褒めることはわたしには難しい

駅員さんが突然いなくなってる、みたいなディテールはよかった そういうのがもっと見れるかと期待してしまっていたのも悪い 駅員さんの声が石川浩司さんだった
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