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コロッサル・ユースのcyphのレビュー・感想・評価

コロッサル・ユース(2006年製作の映画)
4.7
「愛しき妻へ 今度会えたら30年は幸せに暮らせるだろう お前がそばにいれば力も湧いてくる 土産は10万本のたばこと 流行りのドレスを10着ばかり 車も1台 お前の夢見る溶岩の家と 心ばかりの花束 そんなことより ワインでも飲みながら俺のことを思い出してほしい こっちは島から来た連中と毎日働きづめだ 俺の手紙は届いているか お前の返事は来ないがそのうち届くだろう 毎日暇さえあればお前への手紙の言葉を覚えている シルクの夜着のように美しい言葉だ 郵便は月に一回しかこない 返事はまだ来ないがそのうち届くだろう 炭鉱での労働は厳しい 励ましもなく毎日深い穴に降りていく こころが擦り切れそうになる 芝生を手でかき混ぜながらお前の髪の感触を思い出す いっそ忘れてしまえば楽だろう」あともう思い出せない

ヴィタリナの暗さ硬質さに面食らった翌日に観た本作は格好よさと柔らかさとのバランスが素晴らしくよくて最高♡となった 労働者によって繰り返し繰り返し誦じられる妻当ての美しい手紙、開発のために紹介された集合団地の途方もなく明るい空き部屋、延々ととめどなく続くヴァンダのガラガラ声の語り(テレビのアナコンダに夢中になったりかわいい)、美術館やその庭での美しいショット、薄暗い部屋でテーブルを囲んでのあまり美味しくなさそうな食事シーン、時間の流れも多すぎる娘・息子たちもずっと停滞しているようで不可思議で、でもこの船に乗って見えるショットをずっと目で追っていたくなる

映画を映画以外でたとえることほど馬鹿馬鹿しいこともないかもしれないけど、時間の流れてるポストカードみたいだし、振り付けの決められた演劇みたいだし、人々の語りに耳を傾けるドキュメンタリーのようでもある でも結果それは映画なんだろう タルコフスキーはすべてのショットは詩によって繋げられるべきだと語っていたけど同じような美学を感じる

逆説的にだけど、杉田協士という監督が成し遂げたいものへの理解も深まった気がする 事実ペドロコスタの過去作『何も変えてはならない』の日本撮影シーンでは彼方の歌の撮影の方がBカメを務めたそう(ちなみにCカメは諏訪敦彦)
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