ノーラン信者は基本馬合わなくて苦手だけどこれは面白かった 時間軸をなんとか…ていう常套テクについて、あるひとりの人間という一枚絵を描いてくときにいったん眉描いてそれから左袖の皺描いて、て進めることあるよな と納得感を持って受け入れられたのも大きい あと離婚裁判ものが好きなので(それまでの人生がいきなりよくわからない舞台の上で詳らかにされ他人に裁かれること)その趣味にもよく合ってた この国で原爆教育を受けつつ育った者として延々感情を逆撫でされ続けられるという副反応はもちろんありつつそれをさておかずとも上等な(胸糞な)お仕事映画としてのピークもお見事 実験のシーンのビビッドさ、ずーっと泣いてしまった 少なくともこんな予算を投じて原爆について描かれたことはかつてなかったよね
原爆を肯定する映画でない、というところに留まらず、そもそも人間というもの(ここでは基本的に欧米人というもの)を所詮こんなものでしかない と真っ向から否定する映画なのも真っ当でよかった オッペンハイマーという一人の人間の功罪について、というよりは 彼一人にそれらを押しつけて安全圏に戻ろうとする人類(アメリカ人)の愚かしさについての映画 ヒロシマ・ナガサキの惨状を描こうと描かまいと、それが起こる方の現実をこの世界は選んでしまった・その愚かさを抱える歴史の上をわたしたちは生きているという事実自体は覆せない トリニティ実験で喜び合う人、博士に拍手を送る人、ナガサキを言及し忘れる人、より強力な新しい武器を欲しがる人々 みんな無邪気でかわいくて愚かしくてグロい そのばかでか絶望を音で上手に演出してたのもよかった 興奮や喜びが大きいほど人類の醜悪さの描写は加速する そのなす術なくこぼれ落ちて感じ
主な強いて言うならポイントは２つ、ひとつはもちろんヒロシマ・ナガサキの被害描写の足りなさ 一人称だから、目を覆う彼が精いっぱい想像する悪夢がその程度なのは仕方ないにしても、それを多くのアメリカ人が(娘さんの薄皮ペリペリ捲れてるじゃん可哀想！)てレベルで溜飲を下げてるかもの可能性を考えるとやっぱりやんなる エンドロールの後に5秒間くらいその映像を付け足すことはそんなにも難しいことでしたか？とはフツーに思っちゃう(BLACKHOLEの本作特集回を少しずつ聞いてるけど木下惠介なんかはこの方式で長崎を描いてるそう)
強いて言うならポイント二つ目は女性描写のチャチさ 特に終盤、妻の強さ正しさ高潔さみたいなものがひたすらに燦然と輝いてたのはやりすぎに感じた すべての希望が奪われようともただその生をやっていくしかない、恥辱に耐えて全てを奪われてそれからサーモンとポテサラをおいしくいただくしかない、ザッツライフ そんな読後感であってほしかった
