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ライク・サムワン・イン・ラブのcyphのレビュー・感想・評価

4.0
ユーロの「東京」特集にて嬉々として鑑賞 前情報なしにかつ映画がはじまりかけたタイミングで劇場に飛びこんだので冒頭しばらく劇場間違えてないよな?の不安があったけどしばらくしたらすぐ払拭された これはまごうことなくキアロスタミだわ 東京駅のベンチで/銅像の前でじっと孫を待ち続ける祖母の影、嘘がバレた瞬間に間違いなく襲いくる破滅(それはやっと訪れる)、隣人の湿度の高い目線と、いつまでも尾を引く不穏さが背景でサスペンドされたまま物語がつづくのキアロスタミ節としか言いようがない うっとりするような性格の悪さは日本でも生き生きと健在

時間の流れをカットしない、という実験をしながらも退屈なワンショットモノに仕立て上げることもせず車を上手に使ったよいショットで飽きさせないのもさすがで楽しかった あとやっぱり加瀬亮、この加瀬亮が加瀬亮史上いちばんいいのでは ロジェしかり、本当の意味で言葉の通じないブルーカラーの男たちが絞り出す言葉やそれよりうんと雄弁な笑顔や怒りって本当に好きな対象でそれだけでその映画が好きになっちゃうありがとう 自動車工場のこれでもかの感じ、2年働いた福岡の工場のみんなのこと思い出した

隣りのババアは杉村春子リスペクトだ!て思ったけど特にそう言及されてはないみたいで自信ない 小津映画における杉村春子の異質さを再現しているんだと思った 何度も擦って申し訳ないけどこの映画のこの解像度が外国人監督の撮った日本で出来上がるなら、やっぱりパーフェクトデイズは怠慢じゃん(特に日本側の)と思ってしまう 期せずしてこの国での障害者の在り方についても、パーフェクトデイズは(健常者に/観客に)都合のいい妖精としてしか描かないのに対し、本作はしっかり「陰」のものとして閉じ込められている その不均衡な閉塞もまた穏やかな暮らしの底で(隣りで)流れている、というこれもひとつの物語自体には関係のないサスペンション

最後画面が暗くなって劇場で笑いが起こったのもにっこりとなってよかった ユーロはキアロスタミ上映はもういいんですか?と思わないでもなかったけどわたし的にはただただありがたいありがとう キアロスタミがいい人なんて元々思ってないしな
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