cyph

バカ塗りの娘のcyphのレビュー・感想・評価

バカ塗りの娘(2023年製作の映画)
3.9
だいすきなシネマ尾道でちょうど時間が合ったので、というささやかなきっかけで鑑賞したけれど思いがけずとてもよかった バカ塗りとは津軽塗の別名で、バカ丁寧に何度も塗りと乾燥の工程を繰り返してつくられるからだそう 内気な娘と無骨で不器用な職人の父の物語、その娘は他人にも言えない程度の夢と恋心とを抱えていて…というかなりありふれた、ある意味で結末を予想できそうなお話でありながら、中盤にハッと物語をひっくり返し大きく前進させる展開があって、そこからは転がるようにずっと面白かった 弘前での撮影もいいし、シーンの切り方が都度潔く格好いい

以下ネタバレ

好きだったやりとり→ 「兄と来たことがあるんですか?」「夜に一度ね 僕ら夜行性なんで」 いつも陽の光に包まれて笑顔で接客していた片想い相手の花屋のお兄さんの、全く新しい一面 夜の母校に忍びこむ秘密のデートも想像させながらそれ以上踏みこむことを許さない清廉さ

好きだったシークエンス→挨拶の翌日、父がその父(爺さま)に会いに老人ホームを訪れるが父はお昼寝してて、老いと死の気配を纏って眠る父の姿におののいて、トイレットペーパーを買って帰る父 父はかなりよくやっていると思うし、「男らしさ」「父らしさ」の呪いに縛られて全く手も足も出せない自らの無力さにもおそらく自覚的である そんな彼にもトイレットペーパーがなくなりかけていたから買おう、といった母なき家庭の生活の機微が染み込んでいることが無性にぐっとくる

母親とのやりとりの血が凍るような嫌さも死ぬほど不快でよかったし、最後のお通夜での大団円で木野花がぜんぶをひっぱって修復していく力技もよかった 男が情けなさを抱えたままで受け入れられる物語が好きだ
cyph

cyph