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さらば、わが愛/覇王別姫 4Kのいののレビュー・感想・評価

4.5
1924年の第一次国共合作、1937年7月の盧溝橋事件、1945年の日本の敗戦、その後の国共内戦と中国共産党の勝利、1968年の文化大革命、そしてさらにその11年後。

およそ50年にわたる激動の時代に呑み込まれてしまわないように必死に抗い立ち続けているような、いやいや激流に棹さそうとしても抗うことなどできようはずもなく翻弄されるより他ないような。京劇のスター2名(程蝶衣&段小樓)と菊仙。壮絶な人生を描ききった超大作。その50年間を、およそ3時間の尺に圧縮したような濃密さで、観たあとはとてつもない疲労感に襲われたけど、この50年間を味わわなければ体感できないようななにものかも確実に存在し、そういった自分のこの感情はとても稀有なものだったと思う。


おそらくは棄民された子どもたち(が少なからずいたのだと思う)は、酷い虐待を受けながら京劇の芝居をたたき込まれ、成長していく。妖艶で観る者を惹きつけてやまない程蝶衣(レスリー・チャンが演じる)は、その時々の権力者の前で演技を披露するけれど、それは同時に、政権がひっくり返れば途端に危険な立場に追い込まれることを意味する(そしてレスリー・チャンはその悲劇や儚さを身に纏って鑑賞者を更に虜にしていく)。その時々で民衆は、京劇のスターに熱中したりもするけれど、その時々によっては立場を180度転換させたりもする。


上記に記したことよりも、愛が描かれていることの方がメインだった。子どもの頃から労苦を分け合ってきた男性2名が、もしも共に同じひとりの女性を愛したのだったら、事態はもう少し単純だったのかもしれない。そうではなくて、女と男がそれぞれ同じひとりの男性を本気で愛し求めてしまったことから、狂おしいまでの愛憎が絡み合ってしまう。更にそこに中国50年の歴史も絡むので、もう本当にこりゃ大変なことなのです。3人(コン・リー、チャン・フォンイー、レスリー・チャン)それぞれの想いが痛いくらいに伝わってくる。



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京劇にも初めて魅了された。「覇王別姫」を観ていてちょっとわかりました。四面楚歌とか、虞美人草とかは、項羽と劉邦の戦いの時に由来するワードだったんですね。今更だけど今更ながら理解


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メモ

・菊仙(チューシェン)/演じたのはコン・リー

・段小樓(トァン・シャオロウオ)/演じたのはチャン・フォンイー・・・どこかで観たことあると思ったら、『レッドクリフ』では曹操役

・程蝶衣(チョン・ティエオー)/演じたのはレスリー・チャン
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