がぶりえる

さらば、わが愛/覇王別姫 4Kのがぶりえるのレビュー・感想・評価

4.5
麗しきレスリー・チャン

何せレスリー・チャンが綺麗。格好いいとか美しいより「綺麗」。役に入り込みすぎて心がほぼ女性になってしまった天才役者、という難しい役どころをこんなにも違和感なく、かつ華麗に演じられる俳優が他にいようか。彼の美しいお顔立ちと女性的な動きを取り入れた繊細な演技に圧倒される。もうずっとレスリー・チャンを目で追い続けてるってくらい彼に心を奪われる。ウォンカーウァイ作品の時のバリバリイケメンのクズ男の印象とはまた違う凛とした美しさにヤラれる。

戦時中、そして戦後の血気盛んな民衆のムードと京劇という題材が、チェン・カイコーの派手やかな色彩の映像美に奇跡的なくらいカッチリハマっていてる。チェン・カイコーがこの題材で撮ってくれたことが運命的に感じられるくらいにベストマッチング。派手やかな飾りを身にまとった京劇役者たちが舞台上で歌って舞う姿が本当に魅力的でうっとり見惚れる。

そして、舞台上と舞台裏での役者たちのギャップ。京劇の綺羅びやかな表舞台の裏で人生の不条理に抗いながら必死に生にしがみついて生きていく役者達。虚飾の煌めきに突き動かされ、翻弄され、堕ちていく人々の人生の儚さが心を抉る。咲いた花に枯れる運命がある様に、人の輝きには終わりがあって犠牲がつきものだ。誰一人として永遠になった人はいないし、長い目で見れば皆時の人。炎を囲って、3人が互いの恨みや暴露話を吐き散らすラストシークエンスの醜さがそれを物語っている。嗚呼、無常。神は残酷だな。娼婦の親に指をちょん切られて芸能学校に入れられ、酷い体罰を受け、大切な仲間を失い、京劇役者として売れ始めると相方とギクシャクし、役に入り込みすぎて人と普通に関わるのが難しくなり、戦争が終わると京劇がやり玉に挙げられ、3人が分裂し、1人の尊い命さえも奪われた。

「さらば、わが愛」、なるほど良いタイトル。時代の煽りを受け、崩壊していくそれぞれの愛。恋愛だけでなく京劇への愛も刹那的で儚いもの。だからこそ愛は美しい。