fujisan

首のfujisanのレビュー・感想・評価

(2023年製作の映画)
3.7
北野武流の戦国アウトレイジであり、浅草キッドでした。

構想30年、黒澤明も楽しみにしていたという本作。配給元の角川書店とのトラブルで一時はお蔵入りと言われたこの作品でしたが、ありがたいことにようやく公開の運びに。

早くから注目していた作品でしたので、さっそく観てきました。

ということで、本日が初日ということもあり、ネタバレに気をつけてレビューを上げたいと思います。なお、私自身、北野武作品に精通しているわけではないので、どちらかというと戦国ものとしての観点でのレビューとなります。



■ 映画について

□ 映画が描いているもの
荒木村重が織田信長に反旗を翻して籠城した1580年の花隈城の戦いから明智光秀が討ち取られる1582年までを羽柴秀吉(ビートたけし)の目線から描いています

□ 歴史的な解釈
北野武流の新しい解釈は少なく、概ね現在の通説通りだった印象でした。歴史的な大枠を崩さない前提で、いくつかはスパイスとして驚きの解釈がありました

□ 映画のトーン
個人的には、もっとギスギスした人間ドラマかと思っていましたが、羽柴秀吉(ビートたけし)、羽柴秀長(大森南朋)、黒田官兵衛(浅野忠信)の三人がノリツッコミを繰り返す、コメディ要素が強いブラック・コメディ作品という印象です


■ 北野武流戦国史についての考察

□ 時代劇の様式美の否定
桃太郎侍や必殺仕事人、そして大河ドラマまで。いわゆる時代劇としての”お約束ごと”にことごとく従わず、ある意味とてもリアルな戦国史の描き方だったと思います。以下に、具体的な例をいくつか

□ 男色(衆道)
いわゆるBL要素。平安時代にはもうあったと言われる男同士の関係ですが、ここまでぶっ込んでくるとは思いませんでした。有名な織田信長✕森蘭丸の関係に留まらず至るところで。。監督は特に珍しいもんではない、ということを言いたかったのかも

□ 方言
織田信長は尾張弁がキツかったと言われていますが、本作では加瀬亮による”尾張弁きっつい織田信長”像でした。ただ、彼以外は標準語なので、方言に固執したわけでは無さそう。

時代劇での方言といえば、原田眞人監督の「関ケ原」で、名古屋出身の滝藤賢一さんの尾張弁が絶賛されていましたが、本作での尾張弁がどの程度自然だったのかは判断ません(本場の方の印象を聞いてみたいところ)

また、劇中で通称を使わず、信長、村重、と本名(諱)を使っていたのは、日本以外での公開を見越してのことなのかなと思いました。

□ 切腹
これも有名な黒田官兵衛による備中高松城の水攻めで自害した清水宗治の切腹ですが、感動の逸話として残る”切腹前の舞”を真っ向から否定し、『なんだよ、まだやってんのかよ』って言ってしまう潔さ💦

□ 殺陣(タテ)
必殺仕事人など多くの時代劇で描かれる殺陣。集団で取り囲みながらも、一人ずつ刀で斬り込んで行っては殺されるっていうお約束ですが、当然そんなものはなく、そもそも刀よりも弓矢がメインだったという通説が採用されていたのはリアルでした


以上から、総じて言うと『武士道』の否定、なのかもしれません。

武士道を日本人の美徳とする考え方は、平和になった江戸時代以降、特に明治時代の近代になって整備・開発された考え方。

そもそも当時の戦闘員は『首』取ってなんぼ。首や削いだ耳を持って行って金に換金してもらう、あと、死体からは刀でも防具でもなんでも身ぐるみ剥いでそれも金に替える、みたいな生臭いもので、美しくもなんとも無い。

武士道をベースにした時代劇の様式美やお約束なんて無視、恨み妬み裏切りなんでもあり。結局、「アウトレイジ」と変わらないし、結局、人間なんて何も成長してないんだよ、と言いたかったのかな、と。

ということで、
武士道の否定=戦国アウトレイジというのが1つ目の感想。


■ 芸人ビートたけしとしての視点

もう一つの視点は、本作が”芸人視点での映画”であり、芸人ビートたけし自身を投影した映画のように見えたところ。

本作の配役で意外だったのは、実在したかも怪しい、曽呂利新左衛門(木村祐一)という役柄を設定したところ。

そもそも(おそらく)ほとんど知られていないマイナーな存在で、ウィキペディアなどを見ると、”落語家の始祖とも言われ” ている人物なんだとか。つまり、お笑いを商売として始めた人ですよね。

それがチョイ役ではなく、結構ガッツリ登場する。しかも、忍び上がりの成り上がり者で、笑いを取りながらその場の空気を読み、強者に取り入りながら最終的に驚くほどの地位まで出世していくっていう、、これは要するに、ビートたけし自身なのではないかと。

実際、秀吉に取り入るために口八丁手八丁でアピールする姿は、監督の自伝映画「浅草キッド」で劇場のエレベーター係に過ぎなかったたけしが深見千三郎に弟子にしてもらおうとアピールする姿とかなりダブりました。

ということで、
戦国版「浅草キッド」だったというのが、2つ目の感想でした。




以下はネタバレ無しの余談。

一時期、お蔵入りと週刊誌を騒がせていた本作。監督に無断で制作費の一部をNETFLIXに肩代わりさせようとしたのが発端ですが、どっちかというと金の話ではなく、『筋を通せや』っていう気持ちのこじれだったという記憶です。

参考:
ビートたけし「週刊誌は嘘ばっかり書くので本当の話を伝えます」 製作映画のお蔵入り報道に反論 - サンスポ
https://www.sanspo.com/article/20220803-TAV6SQUOHFHZDBZEUYXPTJ6XAQ/

当時、離婚騒動や事務所解散の話などもあり、これはいよいよ無理かなと思っていたので、公開スケジュールが決まっただけで嬉しかった作品でした。

正直、タランティーノばりに歴史改変してくるのでは、と期待していたのですが、そういう意味では歴史ものとしては普通だった印象。

ただ、北野武作品ってジブリ作品と同じく配信に乗らないし、今回ネトフリがらみで揉めたとなると本作も配信されない気がするので、観ておいて後悔のない作品でした。

ちなみにR15+で死体描写は相当グロいので、家族連れやデートで観るのはオススメできないかも😅


ということで、ひとまずは以上です。

ひとつだけ、編集についてのネタバレ感想をコメントに書き、情報を追加したら、コメント欄に追加していきたいと思います。




2023年 Mark!した映画:329本
うち、4以上を付けたのは37本 → プロフィールに書きました
fujisan

fujisan