KeithKH

首のKeithKHのレビュー・感想・評価

(2023年製作の映画)
3.0
北野武監督の系譜でいえば、『アウトレイジ』三部作の戦国版であり、いわば令和版『仁義なき戦い』といえます。
織田一家の子分たちによる跡目争いドラマであり、信長親分と子分である織田家臣群との腹の探り合いと葛藤、若頭の家臣同士の謀略と調略、モザイク的に権謀術数が入り交じる、将に実録ヤクザ映画です。脅迫や恫喝、懐柔のために暴力・金・Sex(但し衆道)が盛んに飛び交います。
基本的にヤクザの組の跡目争いドラマですが、時代が戦国乱世ゆえに、実にあっさりと次々と人を殺していきます。タイトル通り、”首”を刎ねるシーンがやたらと出てきますが、本作の基本構成は人物間の会話劇です。殆どの尺が室内又は室内に類するシーン、而も人物の顔の寄せアップ、その切り返しばかりで進行します。会話の合間に暴力と流血シーンが挿入されるという組み立てで進みます。

戦国時代、而も信長による天下取りを舞台背景にしながら、合戦シーンはあまりなく、従い超ロングで引いたパノラマカットはなく、俯瞰カットも殆どありません。更に剣戟立ち回りシーンも殆どなく、映画的なスケール感は乏しく感じます。

また親分である信長が殆ど狂人であり、天才的な英傑ゆえに狂信的に描かれるのは受け入れられても、ここまで狂って凶暴なキャラクター設定の描き方には違和感と嫌悪感が広がります。
信長組長の狂人性を殊更に強調することで、若頭家臣たちの憤怒と“組”継承への強欲を正当化する狙いがあり、「本能寺の変」の北野流新解釈への伏線にしているのでしょうが、やや強引さが鼻につきます。特に監督自身が演じる、物語のキーパーソンである秀吉は、物語の上では硬軟を巧妙に使い分ける軽妙さと不気味さがないといけないのですが、彼の演技には、漫才師・ビートたけしが見え隠れして興醒めしました。

登場人物が見事に悪人ばかりで善人が一人もいないという殺伐とした話であり、普通なら映像の目先を変えさせて一種の潤いを与えるために登場させる女優が、これも見事に一人も出て来ません。
北野作品によくある、漫才的なギャグをアドリブ風に織り込んでブレイクにしていますが、ともかく無骨で無惨な内容の物語を、それでも最後まで観客の関心を惹きつけていた演出手腕は大したものです。
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