KeithKH

ツィゴイネルワイゼンのKeithKHのレビュー・感想・評価

ツィゴイネルワイゼン(1980年製作の映画)
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第15回京都ヒストリカ国際映画祭で上映され観賞。

1980年度の第4回日本アカデミー賞作品賞を受賞し、鈴木清順監督の代表作にして、独特の清順映像美学の行き着いた名作とされていますが、初めてスクリーンで観た印象は奇妙奇天烈、奇々怪々、終始靄がかかって、ただひたすら五里霧中に漂流した2時間半でした。

そもそも作品を通じたスジがなく、各シーンの風雅さ、優美さ、滑稽さを、その時々の映像と音を駆使して主観的に突き詰め、それらのピースをモザイク状に組み合わせただけの作品といえます。
個々のカットには目を瞠るものがあります。切通しやトンネルの威圧的な不安定感、二人の人物が対峙するミドルレンジのフィックスでの長回しによる様式美の追及、その際に常に藤田敏八扮する青地を下手に配する不安な構図、ややローアングルから撮るカットによる圧迫感、そこから醸し出される濃密な空気感、短く不気味な音階をつないだBGM。
また青地以外の登場人物がことごとく異常であり、特に女性は全員が妖しい狂気に満ちています。

夢と現実、生と死、虚構と実存、相対する二つの世界を行き来するような、得体の知れない気味悪さ、非常に居心地の悪い畏怖感に晒され続けた感がします。
唯一の人間的自我を有する青地の心象風景と実相風景が混沌とした坩堝の中を映し出した映画とでもいえそうです。

鈴木清順監督による、傲慢ともいえる徹底した自己満足作品であり、それ以上でもそれ以下でもない、私にとっては決して愉快な映画とはいえない、つまりもう一度観たいとは決して思わない作品でした。
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