KeithKH

あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。のKeithKHのレビュー・感想・評価

4.0
現代の女子高生が太平洋戦争の終戦2か月前にタイムスリップし、出撃直前の特攻隊員の青年と出会い互いに惹かれ合いながら、戦争により引き裂かれてしまうという、ネットで評判になり、その後出版されてベストセラーになった小説の実写映画化が本作です。
戦時下敗戦間近の緊迫した状況下での、未来から来た女子高生と特攻隊員との時空を超えたラブロマンスという、よくありがちな既視感のするSF物語です。

もはや手垢のついた設定であり、抑々がタイムスリップドラマゆえに、ストーリー展開にはかなりムリと飛躍があって作り手の都合よく進められ、幾つもツッコミたくなるシーンばかりでもあります。
令和の今更、戦時下の純愛悲恋物でもないように思いますが、己の命を犠牲にして愛する人を守る話、決して報われない恋愛にも関わらず献身的に愛する人に尽くす話は、やはり純粋に心を打ち泣けてきます。

つい『野性の照明』(1978)の主題歌「戦士の休息」の歌詞が頭を過ります。
「ありがとう温もりを、ありがとう愛を、代わりに俺の命を置いていけたなら、男は誰も皆、無口な兵士、笑って死ねる人生、それさえあればいい」

百合の花満開の丘での二人のシーン、兵舎脇の月夜のシーン、長回しのカットが見事に効果的でした。更に空襲シーンは手持ちカメラで撮られた唯一のカットであり、緊迫感と危機感と恐怖感がスクリーンに溢れていました。
台詞は決して多くありません。福原遥扮する百合と水上恒司扮する彰の二人だけのシーンで奏でられる叙情的で哀愁に満ちたBGMが、二人の心情を台詞以上に伝えてくれます。
二人のシーンは、常に百合が上手に配される構図でしたが、最後の別れのシーンのみ下手に配されていたのも象徴的でした。

エンドロールが流れる中、福山雅治の歌う主題歌「想望」が流れます。日本映画のエンディングで流れる曲で、これほど作品にフィットし、観賞後感を一層昂揚させる楽曲には久しぶりに出会いました。
想像通りの予定調和のエンディングでしたが、こういうシンプルな作りのベタな物語に偶に出会うと、素直に感動します。
エンドロールの数分間に観客席のすすり泣きを聞いたのも久しぶりで、それが心地良く耳に響きました。

このクソ面白くもない平穏な日常が、当たり前のように延々と続く今の、この一瞬一瞬を大切に生きていこうと、改めて思い至ったしだいです。
KeithKH

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