羽柴秀吉・織田信長・徳川家康といった日本の歴史に大きく名を残す人物達を中心とした時代劇映画で、監督の北野武がかつて手掛けた「座頭市」がとても面白かったので、期待して観賞した。
「本能寺の変」という大きな事変をモチーフに、大名・武将・茶人・忍者から農民までが群雄割拠し、戦乱の世における様々な地位と立場の人間達の思惑と画策が入り乱れる。
史実とはいえ数百年もの過去ということもあり、美化や省略して語られることも少なくない戦国時代について、よくよく考えてみれば血で血を洗うような醜い争いがそこに間違いなくあったのだとあらためて突きつけられるような脚本だった。
人間の業・愚かさ・小ささ・そして哀しさといったものが、どの登場人物にも感情移入できない絶妙な距離感から描かれている。
残酷描写とコメディを同一線上に並べるまたは完全に同居させることで観賞者側に生まれる居心地の悪さも、おそらく監督の狙いなのだろう。
出演俳優は、日本を代表するレベルといって間違いないほど豪華な顔ぶれだが、脚本上でかなり重要な役回りを担う明智光秀を演じた西島秀俊については、外見から感じられる知的なオーラはともかく、演技が終始単調で機微に乏しく、映画全体の完成度を下げてしまっているように感じた。
反対に、学も分別も持ち合わせていないが野心だけは凄まじい農民を演じた中村獅童については、物語全体を通じて、人間が持ちうる狂気と悲哀を壮絶な演技で体現しており、その劇中での生き様を通して作品のテーマが見事に活写されていた。
単品の映画としては充分に楽しめたし、北野監督がこの作品を形にしたかった理由も分かり、他監督にはなかなかできないであろうダイナミックな演出や切れ味の鋭い演出もある。
が、それでも北野監督の他作品、とくに「ソナチネ」「HANA-BI」「BROTHER」等にあった神がかり的に美しい構図の画づくりはほとんど見られず、その点をとても寂しく感じた。
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