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キリエのうたのmiuのレビュー・感想・評価

キリエのうた(2023年製作の映画)
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ふたりはひとりよりさみしくてあたたかくて泣けてくる。名前のある名前のない関係。あなたの声で私の名前を認識する。自分の形を知る。他人の方がやさしくなれて心地よい、でもそんな風に思える時点でもう他人ではなくて、定義のいらない何か。本当のことはふたりが、ひとりが、分かっていればよくあとはどうでもいいことだ。でもそれがままならない世界で「守る」って何なのだろう。その人の本当に耳を澄まさずにかき消してしまう、そんな残酷さがくるしかった。その人の正しさはその人のものなのに。
壊れたケータイ、あなたがくれたギター、撫でた髪、抱えた膝、噛んだ唇、震えた声、どの日常の色もなくさないでいてねと祈りを捧げた。部屋の隅で体育座りするような、天井の滲みで星座を作るようなそんな時間があったね。
白い息が空に混じる。ふたりが歩いているだけで涙が頬を伝う。この世界からかくれんぼしているみたい。みんなよわくてつよくてやさしくてみんな結局ひとり。でもね、どんな道を歩いてもきっとあなたにたどり着くと思うよ。波のさざめき、カモメの声が挨拶する海辺で。あなたに会える気がするよ。
霧が晴れて空に絵を描くような歌声。こんなに胸を掴まれるのはいつぶりだろう。レクイエムで讃美歌で。このキャラバンがどこまでも続いてほしいと、今日も世界のどこかで鳴り響いていてほしいと切に願った。一歩外に出たら、路傍に佇んでいる気がして探してしまう。路花のキリエ。
 
もう終わりだね 君が小さく見える 僕は思わず君を抱きしめたくなる
ふたりでいるのはふしぎな時間だね この星は小さくなった
会えなくなるのは辛すぎるからみえない星ながめてる ためいきは黒い星屑
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