このレビューはネタバレを含みます
トイレ清掃員 平山の日常を淡々と描く。
その1日目だけで、彼が真面目で几帳面でとても優しい人柄であることは想像するに容易い。
毎朝同じ時刻に起床し、同じルーティンで支度をし、好きな音楽をかけて仕事場へ赴く。トイレ掃除も手を抜くことなく、誰も見ないであろう隅々まで綺麗にする。
帰宅して銭湯へ行き、就寝前には好きな本を読む。
休みの日も同様に、休みの日仕様のルーティンがある。
そんな毎日の繰り返しに、日々起こる小さな幸せ、小さなハプニング、小さな戸惑い。
二度と起こりえないそれらを木漏れ日として、平山は毎日フィルムカメラと夢の中に刻んでいく。
多くの人が感じがちな劣等感や虚無感はもちろん平山も感じているのだろうが、彼は小さな幸せを見つけるのがとても上手いので、毎日がとても充実しているようだった。
ニコ親子とのその後も、
アヤちゃんのその後も、
たかしからお金は返してもらえたのかも、
神社でいつもお昼を食べてる女性のことも、
スナックのママとのその後も、
その元夫のことも、
そして平山自身の過去も、
全部何かに繋がる訳でもなく、ハッピーエンドでもバッドエンドでもなく謎めいて終わっていく。
それもまた木漏れ日のように一期一会ということか。
風呂なしボロアパートに住みながら、毎日きらびやかに輝いている東京スカイツリーを横目に生活するトイレ清掃員。
妹との｢世界が違う｣という対比と、｢世界が違う｣のに紙一重で同時進行している皮肉を日常にスカイツリーを映すことで常に描いていて、興味深い。
そしてそれが今の日本の現実なのだろう。
たかしの方がセリフ量多いのでは？というくらい口数が少ない平山だけど、とにかく役所広司さんの表情の演技が素晴らしい。
通勤時間に流れる平山チョイスのBGMは、その曲のことをよく知っていたら平山の心情がもっと解るかも知れないのに、自分の無知さを嘆いた。
2023/12/30 sat.
