tomひで

PERFECT DAYSのtomひでのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.0
ヤバイ、めちゃくちゃいい。

ヴェンダースの映画は4本しか見ていない。「パリテキサス」は大好きだが、「ベルリン天使の詩」は全く嵌まらず。あとは「東京画」と「アメリカの友人」を観たのみ。今作の「PERFECT DAYS」でヴェンダースが提示する人生観があまりに素敵すぎる。映画の主人公・平山とは社会的に真逆の立ち位置に思えるセレブのドイツ人映画監督が78歳でこんな映画を創れるのか…凄いな。

====以下ネタバレあり====

セリフが殆ど無い映画。黙々と繰り返される平山という主人公の日常から、彼の視点、考え方、生き方が浮かび上がってきてどんどん引き込まれていく。誰にも否定させない自分独自の世界、自分の楽しみを見つけている生き方に惹かれる。

カメラがめちゃくちゃ良い。木造アパートに差し込む日差しを感じながらカセットテープの音楽を聴くシーン、その光の美しさ。アパートの窓から見える風になびく木々、木洩れ日、朝の東京、トイレの壁に反射する木々の影、自転車で走る夕景、竹箒の音、葉と葉が擦れ合う風の音、自分達が普段目にする日常風景の美しさを再提示できているカメラが素晴らしい。今時敢えて4:3の画面比率で撮っているのは画角を通しての主人公平山の表現でもあるのだろうか…。

映画終盤、平山の木造ボロアパート前に運転手付きの高級車がついて、ふたつの世界が並列展開される。姪っ子はそれぞれの世界をなんとなく感じ、平山の世界にも惹かれ始めている…。こういう示し方めちゃくちゃ巧い。

映画前半の「やり過ぎですよ、どうせ汚れるんだから」「金がないと恋も出来ないなんて」と平山の真横で嘆く人物配置もそう。平山の思考とそのギャップを際立たせるやり方。さすがのヴェンダース。平山はすぐに汚れても手を抜かないし、金がなくても恋もしている、鳥居をくぐる時には一礼する人物。

全書読破したかのような古本屋のおばちゃんもいいな(笑)Spotifyにも笑った。主人公の名前平山はヴェンダースが崇拝する小津安二郎監督の「東京物語」の主人公からとったそうだが、この映画での姪っ子と並んで同じポーズで写真を撮るカットはまさに小津オマージュカット(笑)でも映画本編自体は全く小津的ではない。あくまでもヴェンダース。

ラストのヴェンダース独自の【木洩れ日】の説明、それはその瞬間ただ一度だけのもの…。二度とない今という時間を大切にしようと思った。
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