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ノスタルジア 4K修復版のtomひでのレビュー・感想・評価

ノスタルジア 4K修復版(1983年製作の映画)
5.0
4Kリマスターで映画の完成度が一段上がった感がある。陶酔の2時間だった。

====以下ネタバレありかも====

「ノスタルジア」を観るのは今回で5回目。タルコフスキーの映画は理屈ではなく感覚。映画の文法、流れる時間も独特で普通の映画ではない。本編の中で「翻訳された詩を読むのはやめろ」と話すシーンがあるが、詩的なタルコフスキーの映像にも重なるようなセリフに思える。タルコフスキーの映像を説明してもその本質は伝わらない、感じる事が全て…。

「ノスタルジア」を初めて観たのは88年3月。映画館から出たあと数日かけてその余韻が迫ってくる感じだった。それから完全にタルコフスキーに嵌まって、彼の作品を次々と追いかけた楽しい日々を思い出す(笑)あれから三十数年、リマスターされたこんな美しい「ノスタルジア」が観られるとは思わなかった。本当に嬉しい。

映画中盤で「あれほど望んでいたのに、自由が怖い」と話すシーンがある。タルコフスキーは亡命以前、共産圏のソ連でずっと映画を創っていた。戦時下でもないのに彼の作品の殆どは国に企画書を出し検閲を受けて映画を完成させている。国がクライアントなので興行成績は考えなくてもいいが、作品の思想的自由度は著しく限定される。その彼が自由な環境下で創った「ノスタルジア」での「自由」について語るセリフと度々インサートされる故郷ロシアの家族の風景はとても印象的で興味深く観る事ができる。ラストの境界が無くなったイタリアと故郷の同化した風景はあまりに印象的…。

タルコフスキー自身の著書「映像のポエジア」を読むと、彼の感覚的な映像がとても論理的に撮られているのが分かる。自作への語り、影響を受けた映画や黒澤、ベルイマン作品への言及その他映像に関する彼の思考が深く感じられるのでタルコフスキー好きな人には超オススメ。
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