葉月

PERFECT DAYSの葉月のレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
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2024年映画館初め。

日々の一瞬一瞬の刹那的な尊さ、人間の喜怒哀楽の豊かさ、そして日本語は やはり唯一無二の言語であることを再認識した映画体験となりました。
2023年のうちに見られなかったのが悔やまれます🥲

渋谷のトイレ清掃員 平山さんの、日々のルーティンを覗き見しているような体験から始まる今作。
淡々と、そして丁寧に生活をする姿に、紛れもなくこれは役所広司ではなく、平山さんがそこで”生きている”と実感させられる表現力に初っ端から圧倒される。

人によっては、単一でつまらないとも取れる生活だが、彼にとっては新しいことの連続であり、日々を慈しむため彼なりに変化を取り入れにいっているように見えた。

トイレ清掃業務中に見つけた三目並べの”挑戦状”を無碍にせず、見知らぬ相手と共に興じる。風に揺れて表情を変える木漏れ日をカメラに撮りためて、現像した写真を吟味する。常連である地下街の飲み屋がその日はやけに混んでて、いつもと違う席に座り、そこからの いつもと違う地下道の景色を眺める。

食には無頓着そうだが、長年愛用しているであろうカセットテープと古本屋で収集した文庫本がぎっしり詰まった棚を物色して、彼のことをもっと知りたいという衝動に駆られる。フォークナーも読んでたよね?

ルーティンのひとつを取り上げるとすれば、(私は女なので、実際のところ よく分からないが)髭の整え方に やけに気品を感じ、一気に虜になってしまった。今思うと、この気品こそが彼自身の過去に結びつくひとつの要素だった。

姪の登場により、彼の平穏な生活は徐々にかき乱されていき、平山さんの人間らしい部分も表れていく。

多くは語られず、観客の想像に委ねられている場面もあるが、前半で彼に虜になっている私にとって、彼に寄り添うということは容易であり、涙してしまう場面もあった。ニーナ・シモンの歌声と眩しい朝日のラストシーンはあまりに力強く、それに加えて役所広司の表情の演技長回しと来たもんだから、涙腺がバカになってしまった。

東京の下町の風景や生活情景、「木漏れ日」をはじめとする日本語特有の感性、これらを凄く大切にしてくれているのが伝わり、日本人として嬉しくなった。

キャスティングも説得力とユーモアで溢れていて素晴らしく、まさかと思ったが、本当に柴田元幸だった。違和感なさすぎてオモロい。
葉月

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