トガシパンダ

PERFECT DAYSのトガシパンダのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
5.0
看護実習で保育園児と公園に行ったことがある。1歳児クラスだった。「あれ!」と指差す方を見ると木漏れ日がキラキラと煌めいていた。思わず手に取りたくなったのだろう。葉が光を透かして、木漏れ日の影は濃くなったり薄くなったりすることをその園児はいつ気づくだろう。大人になっても知らない人はきっと知らない。そういう人たちとは住む世界が違ってきてしまうのだろうな。あの園児たちは、今やもう小学生だ。

東京のトイレ清掃員として働く平山。公衆トイレとしての用途以上に洗練されたデザインのトイレ。用を足すだけでなくその曲線や天井に乱反射する公園の光景が静かに胸を打つ。同じような毎日の繰り返しに見えていても、誰にいうまでもない小さな感動に世の中は溢れている。外を出てまず空を仰ぐ。空だって毎日違う。雲の形や、風の速さや、1年通して見れば日の入りが早かったり遅かったりして色合いが変わってくる。
観葉植物に水をやり、家を出て一息空を仰ぐ、缶コーヒーを買って車に乗り込み、スカイツリーが見えてきたタイミングでカーステレオで音楽をかける。

境内の大木に芽吹く小さな芽をみつけて、神主と会釈をするシーンでなぜだか涙が出てしまった。通りすがりに観葉植物の葉にちょこんと触れるシーンにも。些細なシーンでぽろりぽろりと涙が落ちる。あの光景に似ている。スーパーの休憩スペースのベンチでフランクフルトやソフトクリームを頬張っているお爺さんに会った時みたいだ。なんだかぎゅっと心がだきしめられる。道ゆく人が密かに心内で楽しんでいるのを垣間見ると嬉しくなる。たぶん私はそういう生活に憧れているのだろう。

ルーティン化された毎日に、自分の心をふっと緩ませるタイミングを散りばめておく。そして、ぼーっとする時間を設けてみると、毎日見ている光景でも新たな発見があって心踊る。大変なこの世の中で生きていくには、そういう瞬間が生きていくのに必要になってくる。“映え”やら“丁寧な生活”を追い求める世の中の風潮に飽き飽きしている。他人からの目線や評価を気にするのではなく、自分の心躍る方法で。心豊かに生きていくには、こういうのでいいのに。

「今度は今度、今は今」全くその通り。楽しみが先にあったほうが楽しいし、刺激に目が眩んで今目の前にある幸せを見逃さずにいたい。だから今度は今度、今は今なのだ。