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PERFECT DAYSのchunkymonkeyのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
5.0
やっと観られました~。これは思ってた以上によかったです。欧米人の憧れてやまない禅や瞑想を取り入れた「退屈な日常に感謝しながら楽しむ」生き方が、日本の典型的なワーキングプアである平山という初老の男性を通して描かれます。

皆様書かれているように本作同様退屈な日常の小さな変化を描いたジム・ジャームッシュの「パターソン」に似ているけど、個人的には本作のほうが断然好きです。というのも、非常に複雑で凝った演出をしてもはや主人公の夫婦関係が円満か終焉かという基本的なところさえ批評家の間で解釈が分かれ結局何がいいたいんだかよくわからない「パターソン」と比較すると、本作は映画全体にささやかな人生の生きる喜びであふれて、多くは語らないけれど各シーンの意図もしっかり明確に伝わってきます。

そうそう、主人公の背景とかもほとんど描かれないけど、それでもそのわずかなヒントで何があって今の彼に至っているのか解釈に必要なエッセンスはちゃんと伝わってくるあたりとか、「Aftersun/アフターサン」も思い浮かんだかな。ただ同作は死の匂いをまとった悲しみに対し、本作は今生きている喜びであふれていました。

やはり、なんといっても冒頭に書いたようなスピリチュアルな側面が現代の欧米人のトレンドというかツボにぴったりはまって欧米ウケしているというところが一番だとは思うけれど、社会的な側面においても巧みに描かれていました。

ワーキングプアを美化していると批判する人の気持ちもわからなくはないけれど、私はそんなことはないと感じます。本作は、かつて一億総中流と言われた日本の格差社会が繊細かつ誠実に描写されていました。主人公平山に対する人々の微妙な態度の違いが、露骨に態度に示す欧米人ではなく礼儀正しく大人しい日本人だからこそより一層残酷に映ります。ワーキングプアについてもタカシという若者が絡むエピソードできちんと扱われていたと思います。

もう一つのエモい要素はなんといってもカセットテープや古本、写真屋などの下町にささやかに残る失われた文化!ふと自分を顧みても、音楽はSpotifyだし、本は少し前まで紙派だったけど今は完全にKindle派だし、写真は当然スマホで... 本作が良いと思ったのはそれを単に懐かしいからエモいというだけでなく、それらのデジタルな「情報」にはないアナログな「モノ」に伴う喜びが伝わってきたところです。

本作は海外評をみるのも面白いですね。皆様日本のトイレのすごさに衝撃を受けているとともに、やはり日本で暮らしていないと缶やグラスに入った飲み物が何なのか全くわからないみたいで、各人好き勝手に想像を膨らませておられます🤣

最後に:あんなしがないスナックに石川さゆりはおらんやろ!
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