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PERFECT DAYSのAutomneのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
1.0
これから貧富の格差が激しくなり身分差も出てくる日本の現状を投影していたようなプロパガンダ"お掃除"映画。
本作はお掃除の映画なので、「綺麗なもの」だけを登場させ「汚いもの、汚い人」「見るに耐えないもの、見るに耐えない人」を徹底的に排除する。「汚いもの」は浄化されるべきだ、「見るに耐えないもの」は消し去るべきだ、という選民主義的優性思想。

ホームレスもヨーロッパ風味のお洒落おじいさんしか登場しないし、ダンボールで眠ってもいなければ荷車やワンカップ大関も出てこないし、ヨレヨレの手拭いを使い回して泥々になってもないし周りに蝿も飛んでない。

ダウン症の少年も軽度で人と話せるし、鼻水や涎ダラダラで奇声を発したりはしない。もちろんトイレ映画なので放尿失禁も絶対にしない。もしそんな少年が走ってきたら平山の同僚のタカシは度量の狭い人間なので(汚ねえな…)って感じで追っ払うと思う。映画内であの子と接していたのは、ダウン症の"わりに"軽度だから「障害者にも優しくできる俺」という優越感をタカシが感じやすいからです。

掃除するトイレもやたら綺麗。この映画の背景には、(旧)宮下公園潰しの渋谷浄化作戦(渋谷再開発)の企業群が関わっているから当然のこと。新しいトイレの宣伝も兼ねてますし、もうどうしようもならない弱者が虐げられた歴史はお掃除して淘汰し、闇に葬りたいのです。多くの人たちが戦中戦後の痛みや苦しさを忘れつつあるのと同じように。

本作に弱者の生きる世界線は存在せず、思わず直視できないような浮浪者や障害者はこの映画の中の東京では淘汰され絶滅している。強者もある種そうである。プリウスで轢き逃げしたりするような権力があるマナーの悪いおじさんおばさんもいなければ、対貧困の富裕層周りも全く出てこない。それはそう。富裕層出てきたら平山の生活水準との違いや心の豊かさ経済の豊かさともに圧倒的な差を見せつけられて中流階級が病んじゃうからやらないのだ。これは貧困になりつつある中流階級を気持ちよくさせる"孫の手映画"です。権力側が映画作るとそうなるんだろうな。かゆいところに手が届くくせに触れちゃいけないところには全く触れない。

スナックのママの解像度の低さよ。あんな下北沢に新しくできた綺麗な居酒屋みたいな情緒もレトロもないお店で、客によって態度変えるホスピタリティないママに、だらしないおっちゃんたちが群がるわけなかろう。そして5年もやってるんだったらあんなに接客下手なわけなかろう。これはお水の人は怒っても良いくらい。とりまヴィムヴェンダースがスナックに行ったことないのは分かった。

渋谷が再開発され新しくなったモダンなインスタ映えトイレの隙間から差し込む光「木漏れ日」を美しく思うのは誰か?
すなわちこの映画を作った権力側である。そんなものを作らなくても(旧)宮下公園には名もなき人が描いたグラフィティや浮浪者が定住し拠り所にする日常の豊かさ、すなわち"汚いながらも美しい景色"があったはずだ。本作およびこれからの日本においては少なくとも権力側はそれらを許さない。グレーで仕方なく生きる泥水啜った人々は"汚い"し"見るに耐えない"し"掃除されて当然"なので、その言葉通り絶滅させたいのだ。そういった弱者を淘汰し、浄化し画一化させた上で、「中流だけど貧困な生活でも良くない?」と諭してくるのが本作であり、想定される日本の未来だ。
私は少なくとも弱き者の側へ立ち、相手に対して優しさや想像力のある人間でありたい。この映画をポルノ的に消費するのではなく。

平山自体もまるで富豪のような優雅な生活を送っていて、果たしてその文化水準の高さはどこから来るのか考えた時に、結局親戚金持ちで父との確執に向かい合えてないだけの精神的こどおじで、親子喧嘩ごときを引きずって中学生反抗期程度の意地で「トイレ掃除でファッション貧困やってみました!意外と楽しかったです!」というのがこの物語である。だから高みからちょっと貧困ポルノ要素を詰め込んで「これでいっしょ??」と差し出されてるのがこの映画の本質。
いまの日本について是非考えてみてください。中流に見えて豊かじゃなくて心が死にそうになるけど、平山みたいに「黙って」「何も文句を言わずに」丁寧な暮らしをして生きてゆきなさい奴隷たちよ!!!というメッセージです。

この映画のすごいのは、日本に生まれつきある家ごとの身分格差や経済格差、親ガチャを巧妙に隠しているということだ。
この映画を見て評価している人は、「あ、トイレ掃除みたいな世間では蔑まれているような職業についている人でもこんなに豊かな生活を送ってるんだ!」と元気になったことでしょう。しかしそれで元気になってしまった人は気をつけて欲しい。
平山は月給30は硬いと思うし、それであのコスパ良い生活送ってれば貯金もそこそこある上に毎日飲み食いできる。
そう、平山は貧困層ではない。中流階級です。だからこの映画を見て共感必至なのは貧困に落ちかかっている一億総中流の人々のうちのひとりで、すなわち大多数の日本国民たち。自分よりも立場や身分が下の"ように見える"人物を豊かに描くことで、自分の生活の方がましであると思わせることのできる良質なプロパガンダ。

だからラストシーンや、ちょくちょく挟まれる東京上空ビル街の美しい風景は、0.1割の経済的勝者側(権力側)がタワマンから見た朝日なのではないかと思った。笑
「こんな風に貧困のひとたちは毎日を頑張ってるんだねえ〜!」って高めのシャンパン開けながら発酵させまくった馬鹿高いチーズお供に言ってますよ🍾🧀
ある意味でめちゃくちゃ皮肉な映画。冷戦時代のソ連映画見るくらいに勉強にはなりました📖
日本人、馬鹿にされてますよ??それでいいんですか???(主語がデカい)

最後に
この映画の日本国内でのキャッチコピーは「こんなふうに生きていけたなら」(wikiより)

ー完ー
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