襟

PERFECT DAYSの襟のネタバレレビュー・内容・結末

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
-

このレビューはネタバレを含みます

都内の公衆トイレ清掃員・平山が愛するちょっぴり嬉しくてちょっぴり寂しい日常を切り取った映画

この作品を観て公衆トイレの清掃員を美化していると言うのはあまりにも浅すぎる
本質はもっと別のところにある
そもそも平山が清掃員であることの必要性と、職業に対する思想はかけ離れた場所にある

この作品が伝えたい、愛しい日常を描くのに必要なテンポ延いては尺を取るには、平山という人間が観客に真っ先に愛される必要がある
公私ともに真面目で、無口だが器用で、清潔で優しい。世界中のほとんどの人が彼を中心に据えた映像を見て、彼に報われて欲しいと思う(彼はもう満足しているのに!)。
それがこの映画に不可欠な要素なのだ

平山という主人公には、何か現状を変えようという大半の主人公が持つ葛藤はないが、
日常を変えまいとする葛藤がある。
私たちはある一時を過ぎると変わるよりも変わらない方が大変になっていく

平山の周りには、時に流されもがく若者や家族がいる。でも彼の友達は木。平山の中の時間の流れはもしかしたら人間より木に近いのかもしれない

印象的だったのは、おじいさんとともに空き地を眺めるシーンからの影踏み
「ここに何があったか、もう思い出せないや」
と言うおじいさんに、平山は無言で空き地を眺める
その数シーン後、平山は通っているバーのママの元夫と偶然出会う。彼はガン患者でもう先が長くない。その彼と影踏みをして「(重なったところの影が)濃くならないなんて、そんなバカなことあるはずないですよ」と言う
彼にとっては日常の積み重ねは無意識のものではなく、何よりも大きな力を持つものなのだ。
だから日常を壊されそうになると、不安になるし、怒るし、逃げる
一見僧のような平山が人間性を失わない点がここに集約されている

最後の運転する平山の表情だけを映した長回しのカットは圧巻だった。
役所広司様、完全に平山という人間をこの世におろしていた。
珍しく、ここだここで終わってくれ、というタイミングで映画がラストシーンに入ったのも快感だった

平山と同じくらいの年になったら、また観たい
襟