こなつ

ポトフ 美食家と料理人のこなつのレビュー・感想・評価

ポトフ 美食家と料理人(2023年製作の映画)
4.0
第76回カンヌ国際映画祭で最優秀監督賞を受賞した作品。「青いパパイヤの香り」「ノルウェイの森」などの名匠トラン・アン・ユニ監督が、美食家と料理人の愛と人生を描いている。元パートナーで2人の間には女の子もいるブノワ・マジメルとジュリエット・ビノシュの共演は楽しみだった。別れて20年、作中でも微妙な関係性が垣間見れる2人の阿吽の呼吸は大したものだ。

19世紀末フランスの片田舎を舞台に、著名な美食家ドダン(ブノワ・マジタル)が閃いたメニューを完璧に再現する天才料理人ウージェニー(ジュリエット・ビノシュ)と共に綴る愛と食の物語。

冒頭30分、ひたすら料理のシーンが流れる。早朝の菜園で食材を選ぶウージェニーは、古いながらも機能的に見える厨房で、助手のヴィオレットに指示しながら次から次へと料理を生み出して行く。調理台、コンロ、オーブンとカメラが忙しなく追い、料理人の手の動きを捉え、鍋の中まで映し出す。野菜を切る音、肉を焼く音と共に調理器具の音が心地よく流れる。外では田舎らしく鳥のさえずりが聞こえ、気が付けば芸術的な料理の数々が並ぶ。

骨付き仔牛のポアレ、皮もそのままで鍋にすっぽりはまる舌平目、デザートのノルウェー風オムレツ、、ミシュランの三ツ星シェフ監修とあって見事な作品ばかり。選び抜かれた食材、手間暇かけて丁寧に作り上げる過程、フランス料理独得の作法、料理をすることの基本を学ぶような映像が楽しかった。

助手のヴィオレットの姪のポーリーヌが手伝いに来るのだが、透明感があってちょっと大人びた少女が、絶対味覚の持ち主で食材や調味料を的確に言い当てる。その鋭い天才的資質に驚くが、ウージェニーの後を継ぐ未来の料理人として彼女もまた生きるのだろうか。

食べることに興味のない人は少し退屈かもしれないが、一流シェフ監修だけあって、それはそれは美味しそうなお料理にため息が出る。お腹が空いている時には観に行かない方が良い作品です。
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