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ポトフ 美食家と料理人のMrOwlのレビュー・感想・評価

ポトフ 美食家と料理人(2023年製作の映画)
3.9
舞台は100年前のフランス。1923年頃となるので、第一次世界大戦後(1914年~1918年)のフランスですね。第二次世界大戦(1939年~1945年)ではドイツによる侵攻を受けるなど激動の時代になるため、大戦の合間の平和な時代が舞台という感じです。フランスは農業国としても知られているので、豊富な農作物があり、畜産業も行われているので、食文化が発展する土壌があったことを改めて認識しました。自国の豊かな土壌、陸続きの隣国や、地中海からの海の幸、古くから食文化が発展することも納得できます。
本作を観賞するきっかけは、お笑い芸人「米粒写経の映画談話室(映画評論家の松崎健夫さんも出演しているYouTube配信番組)」で居島一平さんが高評価していたことで興味が沸き、出演者を見ると、美食家ドダン役がブノワ・マジメルと、好きな俳優さんだったので、観賞することにしました。本作はピエール・ガニェールさんという前衛的と評されるフランスのシェフで、パリの8区、バルザックにあるレストラン「ピエール・ガニェール」の三ツ星オーナー・シェフ。ロンドンの「Sketch」でも三ツ星を獲得している方が監修していることもあり、とにかく料理が美味しそうです笑。仕込み段階からもう美味しそうなので、それだけでも映画に没入できますね。
また興味深いのは本作の監督・脚本がトラン・アン・ユンという人で、ベトナム出身、フランス パリ育ちの映画監督・脚本家であることでした。フランス人ではないことに驚きましたが、監督はダナン生まれではあるものの、 12歳の頃、ベトナム戦争から逃れるため、両親とともにフランスに移住しており、パリで育っているのでアイデンティティーの多くはパリで形成されているのかなと一人納得しました。
監督作品は寡作で、1993年、『青いパパイヤの香り』で長編映画監督デビューし、カンヌ国際映画祭カメラ・ドール(新人賞)とセザール賞新人監督賞を受賞。1995年、監督作『シクロ』がヴェネツィア国際映画祭で最高賞に当たる金獅子賞を受賞。2009年2月、村上春樹のベストセラー小説を原作とする『ノルウェイの森』がクランクイン、2010年に完成・公開。2023年、『ポトフ 美食家と料理人』でカンヌ国際映画祭監督賞を受賞と、現在までで4作品となっています。ほぼ映画祭などで賞を受賞している点も凄いですね。
美食家ドダン役のブノワ・マジメルの演技は相変わらず素晴らしく、プロとして矜持を持って生きる天才料理人・ウージェニーを演じたジュリエット・ビノシュも名演でした。ちなみにかつてパートナーであった両名優のふたりは20年ぶりの共演とのこと。
またドダンの家で給仕をする女性ヴィオレット役のガラティーア・ベルージ、その姪のポーリーヌという料理の才能を持つ少女を演じたボニー・シェニョー・ラヴォワールという二人の若手女優さんの演技も良かったです。
演出面では料理の素材のクローズアップや広い料理場を定点ではなく、動きを付けて撮影することで、料理シーンというだけでなく、ドダンの家で開かれている友人達で美食家との食事会も進行していることが理解できるようになっており、奥行きのある演出だなと感じました。その点でも物語への没入感が生まれているように思います。
都内含め、公開スクリーンは多くないので、なかなか上映時間の都合をつけるのが難しいかと思いますが、手際のよい料理シーンを見る面白さ、当時のフランスの田園風景を感じる映像美、音の演出の良さ、など人物描写以外でも楽しめる要素が多いので、大きなスクリーンで観ることをお勧めします。
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