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落下の解剖学のrollinのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
3.9
落下の情


落下の解剖学というタイトルなのに特にオチがないのがいかにもカンヌっぺぇ作品。
鑑賞前はガリレオみたいにトリックや真犯人がまるっと明らかになる人情ミステリーかな?と思ってたけど、実際は転落死した夫の殺人容疑に問われた主人公の裁判を淡々と描いたリアルな法廷劇でした。

裁判で証拠に挙げられる夫婦喧嘩の音声データ部分を実際の場面で見せるのが斬新で、さらには主人公の圧倒的なブチギレENDで法廷にお返しされた時の傍聴人たちの気不味すぎる反応もウケました。
ずっとブチギレ続けるのって大変だと思うので、主演のザンドラ・ヒュラーの演技は確かに凄まじかったです。

50セントのアレがめちゃくちゃ印象に残るけど、全体を通して静と動の抑揚が素晴らしくて、劇伴もなく役者のべしゃりだけで画面を保たせてたのは感心しました。
音で言うと早口のフランス語や唾を飲む音、咀嚼音など、ASMR的な音響効果も登場人物の心理を巧みに演出していたと思います。

本作で特徴的なのは、あらゆる場面が客観的な視点で描かれている点で、つまりは観客さえもこの裁判の傍聴人、延いては裁判員の立場に強制的に着席させられてしまう仕様なのであります。
だからこそ、極めて主観的な終盤の息子と父親の会話が心に残るのでしょう。

また最近のSNSでの芸能人の炎上や犯人探し、盗作とオマージュの違いなど、現代的なテーマもふんだんに取り入れられていました。主人公は悪態ばかりが目立ってかなりオフホワイトだけど、そういった観客の溜飲を下げるエンタメ要素を排除したのも本作に関しては功を奏していると思いました。

真実は闇の中でスッキリしないけど、不思議と余韻は悪くない大人の映画でした。
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