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オッペンハイマーのrollinのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.8
爆風立ちぬ


星の終わりを夢想していた男が、いつの間にかそれが夢ではなくなってしまったことに気づく映画。
きっかけの部分は『風立ちぬ』の堀越二郎と似てるけど、その業は人類が背負うにはあまりに重すぎる。

個人的に今作のテーマのひとつは議論のすり替えだと感じました。腫れ物物理学生だったオッペンハイマーがあれよあれよという間に最悪の殺戮兵器を作る羽目になっていることをはじめ、ヒトラーの死によって持て余した原爆の使い道、ストローズによる政治的陰謀や密室の聴聞会での共産党員疑惑に対する誘導尋問など、大義名分を前にことの本質がスライドしていることに一体どれだけの人が気づいていたのか。
だからこそトリニティ実験で原爆の閃光を直視し続け、カメラと正面から向き合うオッペンハイマーの姿勢はフェアでした。キリアン・マーフィもかなり貫禄出てきたね。

これまでダイナミックな映像で魅せてくれたノーラン監督だけど、今作では「俺はとんでもないことをしようとしている」というオッペンハイマーの心理的なダイナミズムを映像で表現していました。

ただオーバーな音の演出やムカつく奴を脳内の仮想原爆で吹っ飛ばして見せる演出は、正直あまり好みではありませんでした。つかダサい。あとロバート・ダウニー・Jrメインのモノクロパートは何か食い合わせが悪いと言うか、別の映画みたいでもうちょっと何とかならんかったんか?と思いました。
ノーラン作品に共通する時間への抵抗というテーマを何とか盛り込むためのザッピング演出なんだろうと思うけど、今回はあまり上手く機能していませんでした。

キャストは豪華すぎて枚挙に暇がないけど、ブラックホールみたいなゲイリー・オールドマンの存在感が怖かったです。

ノーランの新作としては期待外れだったけど、別に日本公開を避ける意味は無く冷静な視点で作られていたし、全人類が観るべきなくらい意義のある作品でした。
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