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落下の解剖学のdojiのネタバレレビュー・内容・結末

落下の解剖学(2023年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

「夫婦生活はときにカオスに陥ることがある」というようなセリフがあったけれど、もしかしたらfallというのは落下であり、ふたりの関係性の終わりであり、ある男の終焉のことなのかもしれないと思った。もしかしたらサンドラが殺したと思うひともいるのかもしれないけれど、ぼくは彼女のことばのどれもがほんとうだとしか思えなかった。喧嘩のシーンも、彼女はとにかく冷静だし真っ当で、まさに彼がじぶんでじぶんの罠に陥っているようだった。ぼくも少なからずその感じがわかるような気がしたから、passive aggressionの果てに彼が自殺した気持ちも、理解できるような気がする。その点でアレックス・ガーランドの『men』がテーマとしては近いような気もする。

時折客観視するようなカメラやダニエルの視点で大人たちの顔を見せないカットを差し込むあたりも、突き放したような全体の演出の中の多様なアプローチとして機能しているように思う。ぼくは父のものがたりとして途中から観てしまったから、ダニエルの心境にもなってしまって、彼にフォーカスがあたるシーンはどれもつらかった。

ラストで「ただ終わっただけ」と彼女が言うように、裁判の過程を通して文字通り「fall」を解剖してみせただけでもあると思う。開腹されて横たわったそれを数多くのひとが見下ろしながら、そこにある確かな死を認めていく。その静けさとどうにもならなさ、そして居心地の悪さというものを、自殺というのはたしかに残していくのだなと思った。
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